『鎌倉殿の13人』『どうする家康』歴史家視点では?
――歴史家ならではの大河ドラマの見方を教えてください。まずは去年の『鎌倉殿の13人』を例に、こういうところが気になっちゃうんだよね、というところがあれば。
濱田 やっぱりストーリーが面白かったですね。歴史家ならではというよりは、まずそこが気になります。皆さんと差はないと思うんですが(笑)。ストーリーの面白さ、中身がいいかどうかっていうところをまず最初に見てますかね。話の流れとしてもスムーズにいったかなと思いましたし、登場人物のキャラが立っていたという点も、ドラマが成功した大きな理由だと思います。
――ドラマなので史実にはない創作のシーンもあると思うんですが、そういったところはどうでしたか?
濱田 たとえば、実朝が暗殺されるシーン。実朝が公暁に殺害されて、公暁は源氏で代々受け継がれてきた骸骨を持って逃げていきましたが、史実では公暁は実朝の首を持って逃げたとされています。その点は“なるほど”と思いましたね。さすがに生首を持って逃げるのはドラマ的に難しいから、配慮しつつ何か象徴的なものをということかと。
――「善児」というキャラクターがいましたが、あのキャラクターについてはどう思いましたか?
濱田 架空のキャラクターではあるんですが、あそこまで人気が出て話題になったキャラクターは、今までの大河ドラマでもいなかったんじゃないかと思います。
『麒麟がくる』でも、そういった架空のキャラクターは登場しましたが、そこまでインパクトはなかったですし、むしろ鬱陶しいといった意見もあったくらいなので、それを思えば善児は成功例だと思いますね。出すぎず、かといって退場が早すぎることもなかった。
〇【鎌倉殿の13人】強烈なインパクトの暗殺者・善児の正体に迫る!!
――誰かが殺されそうなときに善児の顔が思い浮かびました。最後の義時と政子のシーンはどうでしたか?
濱田 あれも虚構ではあるんですけど、脚本の三谷幸喜さんが「『鎌倉殿の13人』は家族、ファミリーの話」だと。義時と政子のストーリーだという思いがあったようですので、そういった観点からするとあのラストも良かったと思いますね。
――北条政子といえば悪女みたいなイメージがありますけど、今回はまたちょっと違う見方で描かれていたかなと思います。
濱田 そうですね。人間味があるというか。
――実際、濱田さんは北条政子にどんなイメージをお持ちですか?
濱田 やっぱり、かなり気が強い女性だったんではないかなと思います。木曽義高(政子の子・大姫の婚約者)が殺されたときも、殺した武士の命を奪う勢いで激怒していたので、激しい女性だったのではないかと。
それにプラスして、人情味のある方だとも思います。義経の愛妾の静御前が京から鎌倉にやってきたのですが、そのとき静御前は義経の子を妊娠していたんです。頼朝に「女子なら助けるが男子なら殺す」と言われていましたが、生まれたのは男の子でした。結果的に生まれた子どもは由比ヶ浜に沈められてしまうんですが、そのときも政子は思いやりを持って静御前に接していたようです。なので、気の強い人情家というイメージですね。
――義時に対してはどうですか?
濱田 吾妻鏡に書かれている義時は、困っている人を助けるような人物なので、人に対する思いやりはある人だと思います。でもそれだけではなく、謀略を使って他の武士を嵌めていくような非情な面も持ち合わせていたので、情もありつつ政治の面では厳しいといいますか、ダークな面もあった人物ではないかと。
――今回のドラマで描かれた人物像は史実にも近いと。
濱田 間違いではないと思いますね。
――今年の大河ドラマ『どうする家康』、まず1月からご覧になってどうですか?
濱田 家康は泣き虫・弱虫キャラで始まりましたね。戦場から一人脱走しようとしたり、「どうしたらええんじゃ!」って泣き叫んだり。こういうところは史実にはないので、もう少し強さを出してもいいのかなと思いますが、どう落とし込んでいくのかこれからに期待ですね。
――時代背景についてはどうですか? 農民っぽいような三河武士団が描かれていたりしましたが……。
濱田 『三河物語』には、三河武士が今川に搾取されて困っていたという文章が載っていますので、そこを真実と取るなら間違いではないと思います。ただ全員が困っていたというわけでもないとは思います。どれくらいの人がどこまで苦しんだのかっていうのは、わからない部分もあるようですけどね。
――ここがおすすめというポイントはありますか?
濱田 ちょっとしたギャグ要素ですね。三河一向一揆で家康と家臣団が潜入して、別のところで奥さんと侍女も一緒に張り込みしててみたいな。そういった要素があるので、小学校低学年くらいから大人の方まで楽しんで見られるような、エンターテインメント大河な感じがいいところだと思います。
――まさに濱田さんが歴史に興味を持ったのと同じくらいの年齢の子でも入りやすいという。これをきっかけに歴史に興味を持つ子どもが増えるといいですよね。