役者が上で、芸人が下という認識
メイプル超合金のカズレーザーと初めて出会ったのは20年くらい前だろうか。その当時、よく出させてもらっていたブッチャーブラザーズさん主催の「ビタミン寄席」という人気ライブで、彼はライブの音響や裏方の手伝いをしていた。
いつでも赤い服、そして金髪。背も高いし、とにかく派手で目立つ若手がいるなぁと印象に残っていた。それからしばらくして、風呂代わりに通っていたスポーツジムで偶然一緒になる。彼はダンベルなどを使って熱心に筋トレしていて、俺に気がつくと軽く会釈をして、軽く立ち話をするようになった。
そんな頃、あるドラマの打ち上げに若手芸人が呼ばれて余興をする機会があった。若手芸人の余興なんかに誰も興味がないわけで、もちろんノーギャラだ。プロデューサーらしき人はとにかく偉そうで「若手芸人、精一杯盛り上げてくれよ!」と酔っ払って上から目線だった。俺たちは全員カチンときた。売れない芸人をバカにしているのは明らかだったからだ。
その若手たちのなかに、サンミュージックからきたメイプル超合金もいた。そして一通り芸人たちのネタが終わると、パラパラと小さな拍手。その次に挨拶で壇上に上がったのは、とある大物俳優だった。そして彼はこう言い放った。
「先ほど芸人のネタを見たけど、改めて役者はスゴいと思いました」
なんで俺たち芸人の価値を勝手に決めるんだ。どっちが上って誰が決めたんだ。会場にいた芸人はみんなイラついていたし、俺は頭に血が上ってしまった。
「どういうつもりであのセリフを吐いたのか聞いてくるわ」
挨拶終わりの大物俳優が談笑する円卓に足早に向かう。「なんだお前は?」という目をしてこちらを見る俳優に、「さっきの言葉はどういう意味でしょうか?」と問いかけた。
鼻息は荒く、目が血走った俺を見て、さすがにヤバいと思ったのだろう。詳細は覚えてないのだが、彼は「まぁまぁ」と笑顔で俺の肩を抱いて、上手にお茶を濁されてしまった。
いま考えると大事にならずに済んでよかったが、当時の芸能界では役者が上で、芸人が下という認識が強かったのかもしれない。