烈火の如く怒ったカズレーザー
それから何年かして、俺はカズレーザーと同じサンミュージックにお世話になることが決まった。カズは俺が俳優に突っかかっていた姿を見て「この人スゲーな!」と覚えてくれていたそうだ。
事務所が一緒になったおかげで、カズとはさらに仲良くなった。家も近所だったからよく飲みに行ったし、カズは舞台上でも飲みの席でも俺のことをメチャクチャいじるようになった。それは彼なりのコミュニケーションだとわかっていたから、とてもうれしかった。
ある日、どこかの養成所でサンミュージックの芸人がネタをやるという授業があった。授業が終わって、サンミュージックの芸人と養成所の学生で打ち上げをすることになったのだが、飲みの席でもカズや他の芸人が俺に無茶振りしては、そのたびに笑いが起きていた。カズは俺をイジるのが本当に上手だった。彼にどれだけイジられても悪い気はしない。それはやはり芸人の腕なんだろう。
しばらくすると、学生の一人が「この人はイジっていい人なんだな」と判断したのか、突然、俺に無茶振りをしてきた。その瞬間、カズは烈火の如く怒り出した。
「俺たちがイジるのはいい。お前らみたいな学生がプロの芸人イジってんじゃねえ。10年早いんだよ!」
カズのあまりの剣幕に、飲み会の場は凍りついた。涙目になっている学生もいた。今度は俺が「まぁまぁ」とその場をなだめながら、芸人の後輩がリスペクトをもってイジるのと、素人が雑にイジるのは意味が違うのだと改めて思った。
あの見た目のせいか、とてつもない変人だと思われがちだけど、当時からそういうところはちゃんとしていた。
それからほどなくしてメイプル超合金はM-1決勝に進出し、あっという間に売れてゆく。カズは売れてからも、頻繁に連絡をくれた。
「メシ行きませんか?」
連絡がくると、俺はうれしかった。多いときは週に5日は飲んでいたな。カズが売れる前までは俺が奢っていたが、売れてからはカズに奢ってもらっている。だが、カズはそんなことを一切気にかけてないように見えるし、俺にも気を使わせないようにしてくれる。
俺たちの結婚式も来てくれたし、ご祝儀もたくさん包んでくれた。子供ができると安産祈願のお守りを買ってきてくれた。俺は売れたら、カズみたいな先輩になりたいと思った。
もはや、どちらが先輩かわからない。
(構成:キンマサタカ)