今朝、起きたら雨が降っていた。神さえも悲しいんだと思ったよ
そんなイブラといえば、多くの伝説を残したのはパリ・サンジェルマン(フランス/リーグ・アン)時代。
当時、今ほどスター揃いではなかったパリにACミランから移籍して来たイブラは王として君臨し、多くのスーパーゴールを決めました。
退団発表では
「王としてここに来て、神として去る」
と自分はこの地で神になったと宣言。
「どうにかパリに残ってくれませんか?」
というジャーナリストにも
「エッフェル塔をどけて俺の像を立てたら考えてやるよ」
とイブラ節で受け流します。
そして、最終節、残り数分のところでゴールを決めたイブラは観客席へ行き、自分の子どもたちを両肩に乗せてピッチへ。
自分に拍手を送る360度埋め尽くされたサポーターを子どもたちに見せて、そのまま子どもたちを抱いたままピッチを去る、という異例のゴールパフォーマンスを披露して立ち去りました。
急に神がいなくなったので、残り数分チームメート達は神抜きの10人で戦うことになるのですが、それもイブラだから許されることなのかもしれませんね。
その後、LAギャラクシー(アメリカ/MLSリーグ)でも、普通ならヘディングするような高さのボールを、K-1選手のような後ろ回し蹴りでゴールに突き刺すなど、漫画の世界みたいなゴールを決め、再度、日本でも見る機会の多いACミランに帰ってきます。
当時、不振に喘いでいたACミランに復帰したのはイブラが38歳のとき。どんなに息が長いと言われている選手でもフル稼働など不可能。年齢を経験でカバーするような抜け目ないプレーをするような年齢です。今のメッシが35歳、ロナウドが38歳と考えていただけたら想像しやすいかと。
しかし、イブラはいまだ“神”として君臨しました。圧倒的なキープ力とフィジカルで前線に君臨し、チームを一気に上位に押し上げました。
当時の記録は18試合10ゴール。翌シーズンも19試合で15ゴール。本当に人間ではないのではないか、と疑うようなプレーを見せます。
そして2021-2022シーズン、イブラが来るまでは二桁順位をウロウロすることもあったACミランが、ついにセリエAで優勝を遂げたのです。
そのシーズンもイブラはカリスマでしたが、身体は満身創痍でした。
「この半年間、左膝のACL(前十字靭帯)がないままプレーしていた。この半年間、チームと一緒に練習できたのは10回だけ。半年間で20本以上の注射を打った。半年間、週に1回膝を空にした。半年間、毎日痛み止めを飲む。半年間、痛みでほとんど眠れなかった。ピッチの上でも外でも、これほど苦しんだことはなかった」(本人Instagramより抜粋)
イブラは王様ですが、悪政を敷く悪い王様ではありません。自分が王として崇められればチームのために働く、一本筋が通っています。シーズン中に手術をすれば長期離脱は免れない。大事な試合でプレーするために手術を遅らせたイブラは、シーズン後に手術。しかし、最後までピッチに戻ることはできませんでした。
引退会見では
『今朝、起きたら雨が降っていた。神さえも悲しいんだと思ったよ』
と、最後までイブラ節を残しました。
あなたが悲しいなら、他の神もきっと悲しいよ。