自分の趣向を凝らして作った「間借りカレー」
――サークル側も「期待の大型新人が来た!」という感じですよね。
いよちゃん そう言われました(笑)。そのサークルは、私の1つ上の先輩が作った2年目の若いサークルでした。先輩方は塾の仲間で、みんなカレーが好きだから大学に入学したらカレーサークル作ろう、というぐらいの感じだったようです。でも、私は4月に新歓に参加して、5月には企画書を書いて西葛西のリトル・インディアと呼ばれる場所へ行くことを計画して、6月には副幹事に任命されていました(笑)。
5月からは、大学の近くで初めてカレー屋さんでアルバイトを始めて。カレーへの情熱と、その熱量だけで押し切った1年でした。でも、それがすごく刺激的で楽しくて。それまで自分の内に秘めていたことを全部行動に起こして、それがみんなに受け入れられるんだ、というのがすごく心地が良かったんです。自分がやりたいと思って行動に起こすことで、いろんなことが変わっていく。それが目に見えてわかった気がしました。
――サークルにアルバイト、かなり充実していますね。
いよちゃん それに加えて「間借りカレー」も始まりました(笑)。SNSで知り合った方が「お店のお手伝いできる人募集中。賄いと交通費とお土産あげます」とツイートしていて。1日ぐらい遊びに行ってみようかな。カレー食べられるしと思って、応募したんです。そこが、いま流行りの間借りカレーのお店でした。
2~3回目のお手伝いのときに、店主から「いよちゃんもこの店でカレー出してみる?」と言われて。経験のない私に任せたオーナーもすごいなと思うんですけど、引き受けた私も怖いもの知らずだったなと(笑)。そこで初めて、お客様に出す売り物としてカレーを作り始めました。
最初に作ったのはお米のカレー。お米をペーストにして、ルーにして、もったりと甘みをつけて。そこからスパイスの風味を入れていくのですが、あまり色がつかないようなスパイスでテンパリング〔ホールスパイスを油で熱して、油にスパイスの香りを移すこと〕して。コリアンダーなども入れて、スパイスを感じる白っぽいカレーを作ったら、それが「新しい」「面白い」「おいしい」と評判が良かったことで、お客さんもついてくれたんです。
このお米のカレーは、せっかく作るなら自分しかやっていないことをやりたいと思って、カレーを「とろみ」「辛み」「スパイス」「具材」と分解して、自分なりに考えて作り出したものだったので、手応えを感じられてうれしかったです。
そこから、材料も自分で仕入れて、お店に場所代を払って間借りさせてもらい、2018年からコロナ前の2020年ぐらいまで、自分の名前でカレーを出すようになりました。「これをカレーにしてみたら面白いんじゃないか」とか「この組み合わせなら新発見が起きるんじゃないか」とか、毎週、趣向を凝らして変わったメニューを出していました。
――そのときに特に評判がよかった、もしくは自分の中で印象に残るカレーはありますか?
いよちゃん お気に入りだったのは「沖縄カレープレート」。インドカレーサークルと並行して、いろんな地方に行くサークルにも所属していたんですが、そこで沖縄のパイナップル農家を手伝いながらエイサーを練習して、旧盆の日にみんなで踊るという企画があったんです。
1か月くらい沖縄に滞在したので、帰って来たときに「この経験をそのままカレーにしよう!」と思いたちました。沖縄のジューシー(炊き込みご飯)にスパイスを入れ、甘辛く味付けをしたラフテー(軟骨)にもスパイスを加え、ふーちゃんぷるーをスパイスで炒めて。スパイスの配合はそれぞれ変えつつ“沖縄も感じるけど、スパイスも感じる”というプレートは、私の中で満足のいく出来で印象に残っています。
今もそうなんですけど、1つのカレーを出すというより、ワンプレートでごはん、おかず、カレーを食べたときにまとまりがある、“食べた心地がいいことを大事にしたい”と思っているんですが、それを初めて体現できたのが、そのときの沖縄プレートだったように思います。