古代日本で天皇を支えた武内宿禰、始皇帝の側近だった呂不韋……権力者を影ながら支えた人物はユダヤ人だった。そんなものは「都市伝説」だろう……という方もいらっしゃるようですが、真の歴史探求者はあらゆる可能性を捨てずに研究を重ねています。歴史家の田中英道氏(東北大学名誉教授)と、世界史講師の茂木誠氏(駿台予備校/N予備校)による古代史談義に少しだけ耳を傾けてみましょう。

※本記事は、田中英道×茂木誠:著『日本とユダヤの古代史&世界史 -縄文・神話から続く日本建国の真実-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

世界史の教科書に「ユダヤ」が載らない理由

茂木 まずは「ユダヤ人と世界史」を高校教科書でどう教えているかについてお話ししたいと思います。『世界史』の教科書にユダヤ人が出てくるのは、古代オリエントの単元です。出エジプトとか、ダヴィデ王・ソロモン王とか、バビロン捕囚とか、かなり詳しく取り上げます。

ところが、そのあとユダヤが出てくるのはずーっとあとの20世紀で、第1次世界大戦中のバルフォア宣言、ナチスによる迫害、イスラエル建国とパレスチナ戦争という文脈で、バビロン捕囚から19世紀までが完全に抜け落ちているのです。

▲「バビロン捕囚」(ジェームズ・ティソ) 出典:Wikimedia Commons

19世紀イギリスのスエズ運河買収とか、バルフォア宣言では、イギリス政府とユダヤ系ロスチャイルド家との深い関係が出てくるのですが、教科書には「ユダヤ人」とか「ロスチャイルド」という名は絶対に書かれません。それらを隠そうとする執筆者の意図さえも感じます。

これだけ近代史に影響力があった人物の名前が、一言も教科書に出てこないのは、歴史的にアンフェアではないでしょうか。

田中 ロスチャイルド家のことは、まるで彼らがユダヤの代表であるかのように語られるようになりました。しかし、ロスチャイルド以前のユダヤ人もたくさんいまして、彼らはずっと同じ伝統のなかにあるといえるでしょう。それはつまり、“どこへ行っても少数派であり自分たちの国がない、しかし陰ながら活動はしている”という伝統です。

茂木 西暦135年、第2次ユダヤ戦争において、ローマ帝国のハドリアヌス帝がユダヤ人を完全にエルサレムから追放したあとは、彼らには国がありません。1948年にイスラエル国が樹立されるまで、1800年間も国がなかった。このことを理解しないと、ユダヤは語れませんね。

田中 国がない、国籍がないと、個人や民族の名前を出さざるをえない。しかしそうすると、どこか力がないように見えて収まりが悪い。ところが実際、彼らは非常に力があるわけです。だからこそ、世界の人々は彼らを「ユダヤ人」とわざわざ言わなくてはいけなかった。その問題が白人世界、あるいはヨーロッパの世界では、常にまとわりついていました。ある意味で彼らは、利益団体のようなネットワーク組織ともいえるでしょう。

茂木 いつも少数派だけれど、国の政府や王様をサポートし、力を発揮して、利益を得る。彼らが長い歴史のなかで身につけた処世術ということですね。

田中 例えば、中世ルネサンス期のイタリアでは、君主だったチェーザレ・ボルジアに接近してお金を出しました。世界中、いつの時代でもそうやって、権力に寄り添って力を発揮した。実は日本でもそうでした。

茂木 古代日本の秦氏※1のことですね。

※1.秦氏(はたし、はたうじ):渡来系氏族。応神天皇の時代に渡来した弓月君(ゆづきのきみ)が祖とされる(『日本書紀』)。「秦の始皇帝の末裔」という意味の記載もあり(『新撰姓氏録』)。蚕(かいこ)や絹による織物、土木、砂鉄や銅等の採鉱及び精錬、薬草、牧畜などを伝来。京都太秦(うずまさ)を本拠地とし、八幡神社、稲荷神社を全国に広めた。

田中 そうです。例えば、古事記や日本書紀にも登場する、2~3世紀に活躍した秦氏系の武内宿禰※2という人物は、ユダヤ系の渡来人と思われます。その頃から天皇の側近として活躍していました。権力に結びついて利益を得る。国家や組織のマネジメントが得意なのも特徴です。ただし、お金も知恵も出すけど自分は権力を持たない。影に徹する。やはり数が少ない勢力だからです。

▲武内宿禰(菊池容斎『前賢故実』) 出典:Wikimedia Commons

※2.武内宿禰(たけうちのすくね):景行・成務・仲哀・応神・仁徳の5代の各天皇(第12代から第16代)に仕えたという伝説上の忠臣。個人としては長命すぎるので官職名だという説もある。紀氏・巨勢氏・平群氏・葛城氏・蘇我氏など渡来系の中央有力豪族の祖ともされる。

茂木 少数派ですから、武力で来られると負けてしまうことを承知し、マネジメントに徹することで、忠実な部下を演じたわけですね。現代で言えば、バイデン米大統領の後ろにいるブリンケン国務長官もユダヤ人ですね。

田中 トランプ元大統領の義理の息子であるジャレッド・クシュナー氏もそうです。そういうことがもうずっと、古代ローマの時代から続いているわけです。あらゆるところに彼らはいた。ユダヤ人の名前が歴史に出てこないというのは、そういうことです。表面は王様を立てていますからね。また、歴史的な有名どころでは、始皇帝の側近だった呂不韋(りょふい)という人物がいます。

茂木 始皇帝の時代を描いた大ベストセラーの漫画『キングダム』(原泰久/集英社)でも、呂不韋はかなり重要な人物として描かれているので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。