怒るよりも楽しく! 亀田誠治の原点

亀田の話を聞いていると、その穏やかな人柄によってスタッフやアーティストたちと築いた信頼関係、そして土壇場を乗り越え続けてきたことで得た経験によって、さらに新しいことにチャレンジしていくという好循環を生み出しているように思えた。

「土壇場は楽しいですよ。乗り越えた先の景色に毎回、手応えを感じていますし、これを続けていけば、さらに遠くへ到達できるような気がするんです。逆に物事が順調に進みすぎると、どこか怖さを感じることがあって。レコーディングが順調に終わった日の帰り道とかは、超安全運転で帰ったりするくらいですよ(苦笑)」

そのように語る亀田が、土壇場にいるときに常に心がけているのは「怒らないこと」だという。

「土壇場に追い込まれて凹むこともあるんですけど、感情の沸点を作らないことは意識しています。自分がされたらイヤなことを他の人にやらない、という僕の思いもあります。怒りの感情って、喜びよりも周囲に早く連鎖していってしまうような気がしていて、同じ景色を見るのなら楽しくやりたい、というところが一番大きいですかね」

スタッフに対しても「ほとんど怒ったことがない」という亀田。その原点には、決して叱らなかった母親の影響もあるという。

「僕は小さい頃から、母親に“誠治は良い子だ”“あなたはすごい”と言われながら育てられてきたんですよ。赤ちゃんだった頃はもちろん、物心がついてからも喘息の発作で寝付けない日などには、シューベルトの子守歌のメロディに合わせて“誠治は良い子です~”って歌ってくれました。いま振り返ると、僕が怒らずにいられるのは、母親の子育てのおかげなのかもしれませんね」

▲母親が歌った子守歌と同じように優しい声で歌ってくれた

新たな土壇場も楽しみながら乗り越えたい

2023年、台風の影響により、残念ながら一部のプログラムは中止に追い込まれたものの、長引くコロナ禍を経て、日比谷音楽祭は4年ぶりに従来の形で開催された。

「昨年はコロナによる制約がいろいろとあったものの、観客席から拍手がもらえるようになった、そのときも本当にうれしかったですが、今年はお客さんの声を聞くことができた。ようやく観客席とのコミュニケーションが取れるようになって、さらに充実したステージを見せられたように思います」

その言葉通りに音楽祭の目玉でもあるHibiya Dream Sessionでは、桜井和寿をはじめとしたアーティストに加えて、亀田が「音楽祭に心から賛同してくれた」と感謝するシークレットゲストのB’zも登場。普段は見られない貴重なセッションの数々に、会場に集まった人々は熱狂した。

「僕は参加してほしいアーティストの方々に、手紙やメッセージを送ることがあるんですけど、最近では日比谷音楽祭に来ていただいたお客さんから、“こんな素晴らしい経験をさせてくれてありがとう”といった内容の手紙をいただくこともあるんですよ。そういった手紙に目を通すたびに、文字や声で相手に思いを伝える素晴らしさを感じています。

AIやChatGPTといった技術の進歩もすごいですけど、これからの時代におけるコミュニケーションのポイントは、その人の個性が見えるかどうかになっていくんじゃないかと思うんですよね。

昨年までのコロナ禍や今年やってきた台風など、年々進む環境や気候の変化に伴って、これからも予測がつかないことが起こるのではないかと思います。それを乗り越えるために大切なことを、僕は音楽で多くの人に伝えていきたいと思うんです」

4年ぶりに完全な形での日比谷音楽祭を終えた亀田は、来年以降の開催についても次のように語る。

「ここまで続けてくるまでに、さまざまな土壇場がありました。もしかしたら来年以降も、これまでに経験がないような新たな土壇場に直面するかもしれません。それでも僕は、それらの土壇場を楽しめるような環境づくりや心身の準備を整えて、僕の活動を支えてくれる仲間たちと一緒に土壇場を乗り越えていきたい。

これからも、皆さんがこの音楽祭の理念に賛同すること自体が、誇らしい気持ちになれるようなコンテンツ作りを目指していきたいですし、開催回数を重ねることによって、日本的な音楽を通じた社会貢献だったり、フリーライブのあり方の答えを探し出せたらなと思っています」

最後に「予想していいですか?」と亀田が笑いながら話しかけてきた。

「来年の音楽祭に向けて準備していくなかで、もしかしたら土壇場な状況があるかもしれない。でも、それを乗り越える過程で音楽祭も僕も、チームも磨かれていく。僕にとっての土壇場は、人生の最高のステージです」

▲土壇場は僕の人生の最高のステージです