文章を書くことの楽しさに目覚める

『TAIGA晩成』の連載がスタートするきっかけは、ある雑誌での取材だった。

取材をしてくれた担当者のキンさんに「今までの人生を振り返って自伝を書こうと思ってるんですよ」と伝えたことで歯車は動き出した。

「どこかで発表する予定があるんですか?」

「特に決まってないです」

そんな話をした。発表するアテもないのに、そもそも売れてないのに自伝を書こうだなんて「変な人」だと思われたようだ。しかし、それが印象に残って連載できる媒体を探してくれたらしい。

それから数カ月して、事務所に連絡が入った。ワニブックスという出版社で実際に企画を進めてみないか、という驚きの内容だった。

自伝を書きたいと思っていたものの、実は何も行動に移していなかった俺にとって、まさに千載一遇のチャンスだ。後日、マネージャーを含めて打ち合わせをして、最初は2週間に1回のペースで連載をスタートしていくことに。

最初の打ち合わせでは、幼少期を振り返る前に、まずはブレイクのきっかけになりそうな『アメトーーク!』のエピソードから入りましょうかと提案された。

なるほどと思った。当たり前にように幼少期から始めるのではなく、あえて最近の印象的な出来事から入り、そこまでの道のりを描く。面白い発想だなと思った。

『アメトーーク!』では、嫁が泣いてしまったり、そのVTRを見て俺もスタジオでもらい泣きしてしまうのだが、その涙にはいろいろな思いがあった。番組で初めて俺のことを知った人は、単に「涙もろいおじさん」くらいにしか思わなかっただろう。だけど、そこまでの長い長いドラマがあった。この連載を読んで、あの涙の理由もわかってほしい。そんな思いで書き始めた。

自分が書いた文章を送る。すぐにキンさんから疑問や赤字が入った原稿が戻ってくる。

「ここをもっと細かく描写してください」
「この時どんな気持ちだったのですか?」

細かくびっしりと書き込まれている。言われてみて、あんなに大事なシーンをあっさり書いてしまったことを反省した。そうか。文章というのは目の前で起こったことや事実をただ書くだけではなく、そのときの自分の感情や周りの様子などを細かく書くことで、物語に深みが出るし、さらに面白くなるのだと気付かされた。

そして、あの時の自分はこんな気持ちだったな、と思い出して書く作業はだんだん楽しくなってきた。

本でもクライマックスにあたる、親父との思い出は書くのに根気が必要だった。親父との確執は思い出すのもツラかったし、俺の人生において親父への思いはかなり大きかったからだ。

芸能の世界で成功して親父を見返してやると誓ったあの日の自分が、47歳になっても売れない芸人をしてるなんて想像もできないだろう。