アフリカ・ガンビアからの移民が多い理由

1965年以降は、アフリカ系の黒人の移民も増えていきました。スウェーデンのアフリカ系移民の多くはガンビア出身です。ガンビアは、西アフリカの西岸に位置し、西側の海以外の国境はすべてセネガルに接しているという特殊な形をしています。

▲地図『今日も世界は迷走中』(小社刊)より

なぜそのガンビアからの移民が多いのかというと、1965年、実業家のベッティル・ハーディングが独立後まもないガンビアの観光開発を開始したことをきっかけに、多くのガンビア人労働者がスウェーデンに渡るようになりました。ちなみにハーディングは、当初、セネガルでのリゾート開発を目指したものの、うっかり“道をまちがえて”ガンビアに入り、その美しさに魅了されてガンビア開発に乗り出したそうです。

そうした背景もあって、現在のスウェーデンではガンビア系の人たちが社会的に一定の地位を得ています。文化・民主主義大臣やEU議員を歴任したアリス・バー・クンケや、歌手のセイナボ・セイ、作家のンダウ・ノルビーなど、社会的な成功者も少なくありません。

▲ガンビア南部の国立保護区 写真:Curioso.Photography / PIXTA

この時期にスウェーデンに来た移民たちは、スウェーデン語を学び、スウェーデンで仕事をして自立した生活を送り、スウェーデン社会に適応していきました。そして、なかには「スウェーデン人」として成功する人たちも出てきました。そのため、彼らの二世、三世もまたスウェーデン人としてのアイデンティティをもって、スウェーデン社会に適応しています。

一方、1970年代に入ると、スウェーデンの経済成長もさすがに鈍化し始めました。

その結果、移民労働者の組織的な受け入れも1971年のユーゴスラビアでの募集を最後に停止され、翌1972年には単純労働者の移民はいったん禁止されます。ただ、そうはいっても北欧の国らしく、政治亡命者は寛大に受け入れています。

当時のスウェーデン国内では、スウェーデン社会と移民とのバランスがそれなりにとれていました。しかし、それが冷戦の終結以降、一気に崩れてしまいます。

すなわち、1989年に東西冷戦が終結し、東欧諸国の体制転換に伴う難民が発生したことに加え、1991年の湾岸戦争や各地の紛争でも難民が大量に発生すると、旧ユーゴスラビア(ボスニア)難民・ソマリア難民・ルワンダ難民・ブルンジ難民などが、当時すでに「難民の受け入れに寛容な国」というイメージができあがっていたスウェーデンに流入し始めたのです。

特に1993年には約8万人の庇護希望者がスウェーデンに殺到したため、スウェーデン移民庁は職員を5000人に増員し、24時間体制で難民審査にあたっていました。

この頃から、労働者としてがんばって働いてスウェーデン社会に適応していこうとする外国人だけでなく、「とにかくスウェーデンに行けばなんとかなる」と考えてスウェーデンに流れてくる移民・難民が増えていったのです。

真面目な移民たちに支持された右派政権

現在、出自が外国のスウェーデン国民は200万人と言われており「総人口1035万人の5人に1人は移民」という状態になっています。

彼らの多くが、ちゃんとした教育を受けず、言葉も学ばず、社会にも適応する気がないとなれば、当然犯罪の温床になります。実際、2022年4月には、移民の集団と警官隊の激しい衝突が各地で発生し、闇夜に自動車が燃え上がる異様な光景が報道されました。

2022年9月の総選挙に勝利した右派連合の一角を担うスウェーデン民主党は、1988年に設立された右派政党です。もともと白人至上主義運動が出発点だとされているため、日本のメディアでは「極右」とも紹介されていました。確かに過去にはそういう面もあったのですが、2006年には正式にファシズムとナチズムの両方を拒否しています。

特に彼らが現在訴えているのは「スウェーデン社会に同化しないイスラム系移民・難民による犯罪の多発問題」と「これまでスウェーデン政府が強引に推し進めてきた多文化主義」こそ、自分たちが戦うべき“社会の敵”だということです。これらを撲滅することを宣言したことから、近年急速に支持者を拡大して勢力を伸ばすことに成功してきました。

注目すべきは、彼らの支持者のなかには、しっかりとスウェーデン社会に適応しているムスリム系移民や、その他の外国ルーツの非白人(移民二世、三世も含む)の有権者がかなり多いということです。

彼らはスウェーデン語を話してスウェーデン社会の慣習・ルールに従って暮らしています。ムスリム系と言っても、イスラム諸国で蔓延している宗教過激主義や女性への抑圧を否定する立場の世俗的な人たちです。

彼らからすると、そういうイスラム原理主義的な社会がイヤでスウェーデンに逃れてきたのに、スウェーデンに移民・難民として原理主義的な過激派ムスリムがどんどん増えていくという状況はたまったものではありません。「あんなトンデモない連中と俺たちを同一視しないでほしい」という心情になるのも無理はないでしょう。

ようするに、トンデモ移民・難民が増えれば増えるほど、以前からスウェーデン社会に溶け込んで真面目に生活している外国ルーツの人々がバカを見る羽目になっていたわけです。当然、独善的・理想主義的な移民政策で自分たちをさらに苦しい状況に追い込もうとしている左派政党よりも、現実的な問題解決を提案してくれている右派政党を支持します。

こうした状況のなかで、スウェーデン民主党は近年急速に勢力を伸ばしてきたのです。ただし、民主党のジミー・オーケソン党首については、毀誉褒貶が激しく、他党から全面的な支持を得ていないため、首相には穏健党のウルフ・クリステルソン党首が選出されています。