「そのツラさは今だけだから」と伝えたい
――こうしてお話を聞いていても、とても明るいし前向きですよね。でも、若い頃に腎臓をひとつ失っている、かなりツラい経験だったと思うのですが。
大野 そうですね。かなり絶望というか、驚きですよね。ネットで自分なりに調べたら、透析の話とか出てきて不安を煽られるわけです。もういいやって投げやりになったこともあったし、怖かったですね。今、私にメールを送ってくださる方や、お客さんにも、当時の私と同じような方がいらっしゃるんですけど、気持ちがすごくわかります。“私もそうだったな”って。
――そういった方々に、どういう声をかけてあげるんですか?
大野 「そのツラさも今だけだからね」って伝えます。私も同じような苦しみを感じていたけど、今は笑って話せる。「いつか笑い話になるから」って。
今、東京で月に1回、皆さんに会う機会を作っているんです。少し前も「人工透析しないと死ぬよ」と言われてる50代で経営者の方がいらっしゃって、「透析がイヤだから、もうこれで人生終わってもいいかな」って言うんです。そのときに私が「あなたは肝が座ってるから大丈夫!」って笑いながら伝えたんですね、そしたら「こんな重い話をこんなに笑って聞いてくれたのが初めて、でもすごく救われました」と言ってくださって。それはすごくうれしかったですね
――無責任な大丈夫じゃなくて、経験者から見ての“大丈夫”っていうのはとても説得力がありますよね。
大野 じつは私、手術を1回失敗して寝たきりになったことがあるんです。
――え?
大野 はい、麻酔のときに髄液が漏れたか何かで、本来であれば3日くらいで退院できるような手術なのに、2週間以上も寝たきりになっちゃって。で、そのときに窓から空を眺めてたんですね。そしたら“ああ、雲ってこんな感じでゆっくり動くんだ”とか、“空ってこんなに青くてキレイなんだ”って気づいて。全てが楽しい、うれしい、と思えるようになったんです。歩けるようになった、うれしい。自宅で好きに料理ができる、楽しい。その経験が今の私につながっていると思います。
――当たり前にできることの尊さって気づきにくいですよね。
大野 はい。この経験により180度と言っていいくらい考えが変わったし、開業してからの仕事にも大いに影響を与えていると思うので、早めに当たり前の尊さに気づくことができてよかったなと思っています。
大野さんがおすすめするスープ
――開業してからすぐ、2012年にはYouTubeチャンネルを開設されてますよね。
大野 最初は暇だったので、つぼやお灸の動画を上げていたんですが、登録者数が一気に増えたのは、解毒スープの動画をアップしだしてからですね。ちょうど皆さんが巣ごもりしている時期と、料理を作りたいという欲求が高い時期が重なったからだと思ってます。
そもそも、私が料理にハマったのも、術後で暇だった時期なんです。だから料理の大変さ、しんどさというのがよくわかる。それこそ、腎臓がひとつないというのは、体に掛かる負担が大きいから、時間や体力がないと料理ができないことも知っている。だからこその「スープ」というのがあるんです。スープであれば、食材の溶け出した栄養も取ることができる。あとは、私の性格上、めんどくさがりというのもあります(笑)。
――でも、スープってハードルが低くていいですよね。特に反応が大きかったレシピはどれでしょう?
大野 「黒い若返り食材のサムゲタン風」は反響が大きかったですね。あとはコロナ禍だったので、感染対策になりそうなものはリアクションが大きかったです。他には「ツナとセロリの濃厚豆乳スープ」が美味しいって感想をよく聞きます。
それから、腎臓が悪い方には「栄養過多になってもいけない」ということをお伝えしたいです。以前に「スープを主人に飲ませているのに元気がない」という方がいました。よくよく聞いたら、いつもの献立に追加してスープも出していたんですね。私のレシピは、この1皿で栄養も量も十分なので、他のおかずなしでも満足できます。消化するものが多いと、それだけ腎臓に負荷がかかります。だから、毎日スープを飲んでいる方で、健康にならないという方は食べすぎていないか献立を見直してみてください。
〇【一生老けない】ずっと若く見える人が食べている腎臓ケアの若返り食材をかき集めてスープにしました。
――最後に今後の目標をお教えください。
大野 この本の印税は「一般社団法人AIM医学研究所」に寄付させていただいているんです。AIMは、さまざまな動物の血液中にあるタンパク質で、体内で出た老廃物などのゴミを掃除してくれる役割なんです。猫ちゃんは腎臓の病気で亡くなることが多いのですが、それはこのAIMがうまく働かないからというのがわかり、AIMを投与すれば治療が可能になることが明らかになってます。
今はまだ猫ちゃんなどで進められていますが、これが人間にも適用できるようになると、人工透析をしなくてもいい未来が来るかもしれない。ひとりでも多くの方が健康に暮らしていければいいなというのが、私の願いです。