「画像生成AI」ってよく聞くけどいまいちわからないし、まだほっとけばいいか……。そんな悠長なことを言っていると、あなたの仕事がなくなってしまうかもしれません。事実、中国ではクリエーターの仕事がAIに奪われ始めているとか。人工知能とそれを支えるクラウド技術の進化を長年追い続けてきた専門家・小林雅一氏が警鐘を鳴らします。

※本記事は、小林雅一:著『AIと共に働く -ChatGPT、生成AIは私たちの仕事をどう変えるか-』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。

魔法使いの「呪文」で生成するAI画像

現時点で、はっきり目に見える形で、労働者の仕事(雇用)がAIに奪われるケースが出てきています。それは、いわゆる「画像生成AI」による影響です。

画像生成AIは、ユーザーの言葉によるリクエスト(プロンプト)に対し、イラストや絵画、写真などの画像を描き出す人工知能(ツール)です。

世界的によく使われている画像生成AIには、(ChatGPTの提供元でもある)米OpenAIの「DALL-E2」、英Stability AIの「ステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)」や「ドリーム・スタジオ(DreamStudio)」、さらに米国の「ミッドジャーニー(Midjourney)」(製品名と提供団体名が同じ)などがあります。

いずれも2022年の春頃からリリースされましたが、あっという間に世界中に広がりました。日本でも、これらのツールがよく使われています。

それらがどんなものであるかを示すために、実際に画像生成AIを使ってSF風の写真のような精密画を描いてみましょう。

▲画像生成AIが描いた精密画

このケースでは「DreamStudio」という画像生成AIを使っています。

その画面の入力欄に「Futuristic flying car with smooth lines, shot in a low light high contrast studio setting, science fiction, cutting edge, high detail, moody atmosphere(滑らかなラインの未来的な空飛ぶ車、低照度高コントラストのスタジオ環境で撮影、SF、最先端、高精細、ムーディーな雰囲気)」というプロンプトを入力したところ、画像生成AIが実際にそのような精密画を描き出しています。

このプロンプトからおわかりのように、画像生成AIには基本的に英語で指示を出します。そこで使われる英単語や、それらの組み合わせ方によってAIによる出力画像のクオリティが大きく左右されるので、こうしたプロンプトは「呪文(spell)」などと呼ばれています。

つまり、魔法使いの呪文のように不思議な効果があるという意味です。

このように一般ユーザーが言葉を使ってAIに指示を出すだけで、まるでプロの画家やイラストレーターが描いたかのような、精巧で美しい画像を描き出すことができます。

これ自体は素晴らしいことかもしれませんが、一方でプロのアーティストやクリエーターにしてみれば、自らの職業が脅かされる恐れが出てきます。

AIに仕事を奪われている人が出始めている

ゲーム業界では、テンセントなどの大手から中小メーカーまで、画像生成AIを使用してキャラクターや背景、さらにはポスターなどの宣伝資料をデザインするようになりました。

このため、従来これらの仕事を請け負ってきたイラストレーターなどは、舞い込む仕事が大幅に減少している模様です。

たとえば、重慶市にあるデザイン事務所は大手ゲームメーカーにイラストを提供してきましたが、キャラクターのデザインを担当する15人のイラストレーターのうち、2023年に入って5人が解雇されたといいます(中国のテクノロジー関連メディア『36Kr』日本版の報道より)。

日本でも不安が高まっています。

さまざまなクリエーターらが加入する「日本芸能従事者協会」は、2023年5月にインターネットでのアンケート調査を実施し、イラストレーターや声優、漫画家など2万5000名以上が回答した中間結果を公表しました。

それによれば、「(生成)AIによる権利侵害などに不安がある」と回答した人が全体の94パーセント余りに上り、「仕事が減少する心配がある」と回答した人も58パーセント以上に達しました。

すでに「画風を盗用された」「公表した漫画が(生成)AIが学習するデータとして勝手に使われていた」「二次利用を禁止して公開した自分の声がAI加工のモデルとして無断で販売された」などの声が寄せられているといいます。

このため回答者の25パーセント以上が「法律による規制」を求めているほか、「著作権者に対する(各種コンテンツ)使用料の支払い」や「AI生成物の商業利用の停止」などを求める意見も寄せられているとのことです(「“AIで権利侵害” クリエーターの9割超が不安 業界団体の調査」、NHK News Web、2023年5月15日より)。

▲AIに仕事を奪われている人が出始めている イラスト:hobi / PIXTA

こうした画像生成AIの影響は、既にアマゾンなどで提供される電子書籍にも現れています。

電子書籍リーダー「Kindle」のタレント写真集のランキングでは、2023年の夏頃に画像生成AIによって製作されたアダルト系のグラビア写真集が1位になりました。こうしたAI製コンテンツは、一種の話題性に乗って注目を浴びたようです。

今後コンスタントに売れるようになるかはよくわかりませんが、このままいけば実在する人間のタレントや写真家らの仕事に対する需要も、ある程度は影響を受ける可能性があるでしょう。

ただ一部のAI製写真は、実在する女優や声優らの容姿に極めてよく似ていることから、「肖像権の侵害」など法的な問題が指摘されています。

2023年5月に集英社・週刊プレイボーイ編集部が出したAI製グラビア写真集『生まれたて。』は、大手出版社として初めて生成AIを使った写真集として注目を浴びましたが、間もなく販売を終了しました。

この理由は恐らく、そうした法的な問題を懸念してのことと見られています。

このように画像生成AIにはさまざま問題がからんできているものの、実際に仕事を奪われている人たちも出てきています。今度の動向にも注目したほうがよさそうです。