四方八方を海に囲まれた島国の日本、その海底には多くの希少資源が眠っていることをご存知でしょうか。電気自動車やスマホ、パソコンなどのハイテク製品の製造に欠かせない材料に「レアアース」があります。日本最東端にある南鳥島周辺の海底には、世界需要の数百年分に相当するレアアースの埋蔵が確認されており、現在は東京大学などを中心に研究が進められています。
そんな日本の未来に希望が持てるニュースを、明確なエビデンスに基づいて発信するYouTubeチャンネルが「ひつじさん【明るいニュース】」。運営者であるひつじさんは、今年3月に『難しいことはわかりませんが、日本の未来が明るくなるニュースを教えてください』(KADOKAWA)を上梓。YouTubeで紹介した地学や資源(エネルギー)の内容がオールカラー・イラスト付きでわかりやすくまとめられている。
動画配信にとどまらず、執筆にも活動の幅を広げているひつじさんにニュースクランチがインタビュー。質問に一つひとつ丁寧に答える姿は、日頃から論文を深く読み込み、真摯に動画制作に向き合う姿そのものだった。
日本が広がることにワクワクしました
――ひつじさんの経歴を教えていただきたいのですが、やはり理系だったのでしょうか。
ひつじさん YouTubeのコメント欄でもよく聞かれるんですけど、実は全くの文系でして(笑)。大学は横浜国立大学の経済学部に通っていました。大学卒業後は、不動産会社に就職して営業をやっていたので、理系とは無縁の生活だったんですよね。
――そうだったんですね。ひつじさんがYouTubeを始めたきっかけは「西之島のニュースに感動してYouTubeの配信を始めた」と、新刊に書かれていました。
ひつじさん 2013年から始まった西之島の噴火ですね。面積拡大の勢いがすごくて、ディズニーランド何個分が数週間で増えたり、何もしなくても自然に日本の国土が増えることにワクワクしたんです。それからずっとニュースは追っていました。
――動画の内容は独学で調べているんですか?
ひつじさん はい。「J-STAGE」というサイトで論文を読み込んで、あとはGoogleで自分で調べたり、趣味の延長が動画につながった感じです。本業以外に何か収入源が欲しいなという気持ちで始めたんですけど、西之島の動画が予想以上にバズったんです。再生回数もいきなり1万回とか、3本目で30万回とかいったりして。最初は趣味の範囲だったんですけど、いろんな方が見てくれて反響も大きかったので、どんどん楽しくなっていきました。
――バズったのには理由があると思うんですが、チャンネルの開始当初から、他のYouTubeチャンネルとの差別化は意識していたのでしょうか。
ひつじさん そうですね、差別化は当時も今も意識しています。よくわからないブログや掲示板の書き込みをそのまま動画にしたり、量産系のゆっくり実況だったりとか、根拠が不明確なのに、ただひたすら“日本すごい”みたいなチャンネルがYouTubeには多くて。そういったチャンネルとは差別化したいと思っていました。
――たしかに陰謀論とか、精神論に基づいた動画は多いですよね。
ひつじさん 実際のニュースとかを誇張して、小銭を稼ぐことに特化している。それだと本末転倒だなと感じていました。自分の場合は論文をしっかり読み込んで、明確なエビデンスに基づいた前向きな情報発信を意識しています。
あとは動画の質ですね。他のYouTubeチャンネルの場合、フリー素材を多用したりとか、根拠が曖昧で誇張した動画が多いのですが、そうではなくて政府機関が発表した資料や実際にインタビューした写真を使ったりしています。
動画製作を投げ出したいときもあった
――多くの視聴者から人気を得ている要因はなんだと思いますか?
ひつじさん 動画を見てくれている視聴者を深く分析しています。ターゲットとなる視聴者のことを「ペルソナ」というんですけど、ペルソナの生活スタイル・考え方・環境・価値観などを想像しますね。そして、ペルソナが喜びそうな動画作りを心がける。コメント欄もできるかぎり返信して、誠実な対応を心掛けています。
それから、大学の講堂で自分が教壇に立って、視聴者は生徒として席から見ているっていうイメージをしています。動画ができたら、自分を生徒(視聴者)に憑依させて動画を見る感じですね。そうやって客観的に動画を見ると、“ココはわかりにくいだろうな”とか”こうすればもっと面白くてわかりやすくなるな”とか、作っているときに見えなかったことが見えてきます。そして内容を微調整しています。このように「視聴者ファースト」というのは常に意識していたので、その結果として再生数が伸びたのかなと感じています。
――これだけボリュームのある動画を作るにあたって、ものすごくエネルギーが必要だと思いますが、どのような体制で動画を制作されているのでしょうか。
ひつじさん 今は3人体制(ひつじさん、シナリオライター、動画編集者)で制作しています。自分が企画書を作って、シナリオライターに台本を書いてもらい、動画編集者の方に作成してもらう感じです。YouTubeで紹介したい、制作したい企画はまだまだたくさんあります。けれど、細かいとこまで見ていると1つ動画を作るのに2週間はかかってしまいますので、載せきれないものは全てTwitterに載せています。Twitterはほぼ毎日更新しています。それと、もっと情報発信をしていくためにラジオも始める予定です。
――これまでの動画制作で苦労したエピソードはありますか?
ひつじさん 千葉工業大学に海底資源「マンガンノジュール」に関する取材をさせてもらい、動画を作ったのですが、そのときの動画製作は2か月も時間がかかってしまい、一番苦労しましたね。簡単に経緯をお伝えすると、もともと自分が冒頭にも述べたレアアースに興味があったので、第一線で研究をしている東京大学さんにお声がけさせていただきました。
東大のホームページを見ると、レアアース研究に関する東大基金というものがあったので「取材のお礼として動画の広告収入を全額寄付するので、コラボしてくれませんか?」とお願いをしてインタビュー動画を作ったんです。そのあと、東大の紹介でマンガンノジュール研究を行っている千葉工業大学にもつないでいただいて、動画を作ることになりました。
――実際にどんな苦労があったんですか?
ひつじさん 千葉工業大学では、マンガンノジュールについてのプレスリリースや資料の読み込みなど情報が多すぎて、調べるだけで1ヶ月ぐらいかかってしまいました。いざ動画を作り、千葉工大さんに見てもらったんですが「このサムネだと表現が強すぎるからダメ、この部分もダメ……」ってことで、結局やり直しが3回ぐらいありました。
さらに、画像や動画の利用にも申請が必要でしたので、それでもNGが出てしまったり。結局、マンガンノジュール動画の完成には2ヶ月以上かかってしまったので、この期間は他の動画を作れず動画収益もかなり減ってしまいました。2か月以上かけて動画を作っていたので「YouTubeって大変だな。もうやめようかな」と投げ出したくなるときもありましたが、結果として10万回以上再生されましたし、視聴者にも喜んでいただけたので“あの2か月は無駄じゃなかった”と今なら思えます。
〇中国一強をぶっ壊す!南鳥島に眠る国内需要300年分のマンガンノジュール【前編・千葉工業大学監修】
〇ついに本格始動した南鳥島マンガン団塊開発(研究成果まとめ)【後編・千葉工業大学監修】