「時間がない」は言い訳でしかない

――でも、賞レースで結果を出したいとなると、今は圧倒的に時間が足りないですよね。いろんなことをやると力が分散するというのもありそうですし。

兼近:いや、でもそれは言い訳だと思いますね。

――ストイックですね。兼近さんは、いつもわざわざ大変な選択をしているように見えます。

兼近:でも、趣味ですからね。イヤだったらやめりゃいいんで。そういう意味では楽しいからやってるだけで、ツラいとは思わないです。

――毎日が楽しいですか?

兼近:はい。リアクションが全部違うんでね。作ったネタがまったくウケないときもあるし、ちょいスベのときもあるし。絶対におんなじものが返ってくることってないので、そういう部分は楽しめてるなぁって思いますね。

大谷翔平がいい例かなと。結局、“二刀流”やってるじゃないですか。今までの人たちは言い訳してたんですよ、「そんなことはできない」って。だから、俺もなるべく「時間がないからネタができない」みたいな言い訳はあまりしないようにしてますね。

――大谷選手みたいに前例を覆していくということですね。

兼近:まあ、それに付き合わされてるりんたろー。さんは地獄だと思います(笑)。

――芸人を始めた当初と今とでは、成し得てきたことも多いし、仕事の中で自分の価値が高まったことを感じられるようになったと思うんですが、兼近さんの自己評価はだいぶ変わってきましたか?

兼近:あぁ.....自己評価......どうなんだろう……低いのかな、結局。評価の基準があんまり定まってないのかもしれないけど……お金とかを基準にすればわかりやすかったのかもとは思いますけどね。ただ、お金を稼げたとしても、それで自己評価が上がるタイプではないんで。そこがちょっと、折り合いをつけないといけない部分だと思いますね。何かしらで自分を評価しないと。

――でも、今日のトークショーみたいに、来てくれた人がこんなに喜んでくれたら、「自分はこんなに人を喜ばすことができるんだ」って思いません?

兼近:ああ、それは確かに。ウケ感とか盛り上がりとかで「いいねえ」とはなってるかもしれないですね。でも、あんまりないんですよね……。

▲イベントで撮影に応じる兼近大樹

――兼近さん、スーパーヒーロー感があるのに。

兼近:だから、自己肯定感が高いんだけど、自己評価は低いってタイプ。

――ややこしいですね(笑)。

兼近:自分のことが好きだし、あんまり周りのことは気にしないけど、自分への評価は高くないんですよ。

――それはただのストイックな人ですよ(笑)。最近は特に撮れ高とか、スーパーヒーロー感を求められることが増えましたよね。

兼近:うん、多いですね。

――そういうの、荷が重いなって思うこともあります?

兼近:いや、失敗したらしたでオイシイじゃないですか。

――え?

兼近:ハハハハハハ。できたらラッキーだし、失敗したらうれしい。二足の草鞋なんで。これはたぶん、お笑い芸人特有のやつです。

――(笑)。いつも何かを期待されてる状態ですよね。それに応えることが一つの大きな喜びになっている?

兼近:まあそうですね。なるべく言われたことには答えたいけど、逆に言われなかったらラッキーと思って雑にしちゃう。細かい部分ばっかり気にしちゃうんで、ずっと気にしてるとダルいんですよ。だから自分が主役じゃないときって、めちゃ手を抜くんですよ(笑)。

それでなんとか(心を)保ってます。全部自分で考えちゃうと苦しいんですよ、疲れるんで。だから、人が主役のときはやらなきゃいけないことだけ、とりあえず出るだけ出る。で、特に自分から発信はしない。そういうバランスの取り方は最初の頃からずっとやってます。誰からも求められてないときは目立とうとしない。

――それは賀屋さんも言ってましたね。「自分が主役じゃないときは大人しくしてる」って。

兼近:そうですね。人が多いときとかは頑張んないです(笑)。人、めっちゃ多い番組とかは「あ、ラッキー」って思いますね。楽できるなあ、喋んなくていいやって。