なぜNATOの全会一致方式が有効なのか?

同じく国際機関である北大西洋条約機構(NATO)の意思決定は全会一致方式であり、全加盟国のコンセンサスを得ることが必要である。意思決定に至るまでに長期間を要する場合や、決定に至らない場合もあるものの、コンセンサスを得るために粘り強く徹底的な議論が行われるからこそ、各国の認識共有が図られる。

各加盟国の主権を尊重し、それぞれの立場に基づく主張を聞くことが国際機関としての役割とも言えよう。

一方、国連は拒否権を有する安保理常任理事国の全てが、意見の一致をみないと意思決定されないため、拒否権発動をもって議論は止まってしまうのである。常任理事国以外の加盟国は、多数決方式に参加する国家としての位置付けであり、多数決である以上、議論を尽くすよりも採決を優先しがちにならざるを得ない。

全会一致方式は、意思決定に時間がかかるものの、徹底的に議論するために、たとえ意見が一致しなくとも議論を通じて理解が進むのである。一方、多数決方式では、ある程度まで議論すれば採決によって意思決定がなされ、理解の進展には限界があろう。

安保理常任理事国から拒否権を剥奪するとの改革案では、現行の多数決方式を残したままで、意思決定は容易かつ早期にできるものの、議論は尽くされないまま国連による強制措置が行われる可能性が多くなろう。

また、常任理事国の数を増やすといった改革案が出されることもあるが、拒否権のある国と、ない国が存在する以上、現在と同じく意思決定できないという問題は残ることになろう。ちなみに、日本国内の政治的意思決定は多数決方式である。仮に全会一致方式を採用すると、周辺国との紛争対処や国内問題にタイムリーな対応ができなくなる。

▲なぜNATOの全会一致方式が有効なのか? 写真:mediaberlin / PIXTA

 地域ごとの安全保障の枠組みの必要性

結論としては、現在の国連憲章に基づく国連機構では、戦争防止機能としては限界があると言わざるを得ないだろう。安保理事会を完全に改革して、その構成国には地域ごとの代表を参加させ、国際的な問題に対しての強制措置には、全会一致方式による意思決定を行うことが望ましいだろう。

しかし、国連憲章変更のためには、まず憲章再審議の全体会議の開催を決定するため、総会構成国の3分の2の多数と安保理事会理事国の投票が必要となる。そのうえで、全体会議の3分の2の多数により勧告された憲章変更について、安保理全常任理事国を含む加盟国の3分の2が批准して効力を生ずる。はっきり言って、国連憲章は改正不可能な手続きが盛り込まれた憲章である。

結局は新たな条約に基づく、新たな国際機構を作り上げるしかないと思える。いや、それよりは国連憲章の認める地域的取り決めを発展させることが、妥当かつ近道ではないだろうか。

前述したNATOは、国連の目的および原則と一致しており、冷戦後加盟国が2倍に増加したものの、域内での紛争は発生していない。地域ごとに集団安全保障機構を作り、周辺にある脅威対象国の武力行使を抑制することができるように、全会一致方式で粘り強く機構を構築することが望ましい。

▲NATO加盟国の変遷。フィンランドが2023年4月に加盟し現在31か国 

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