ロシアとウクライナ、イスラエル軍とイスラム組織ハマス。現在、世界では大きな衝突が起きているが、どちらも終結への糸口が見いだせていない。こういった国レベルでの争いの場合、解決に向けての場として国連安全保障理事会(以下、安保理)に期待したいところではあるが、残念ながら機能不全という声が多く聞こえる。世界をゆるがす非常事態に元陸将・小川清史氏が、国際連合の枠組みを検証する。

ウクライナの安全保障「ブタベスト覚書」について

ウクライナゼレンスキー大統領は先月、安保理に出席し、国連の枠組みを批判した。特にロシアを侵略者と名指し「侵略者の手にある拒否権こそが、国連を手詰まりへと追いやった」と述べ、安保理のあらゆる取組みや、イニシアチブを拒否する能力がロシアにあるため、ロシアのウクライナ侵攻を止めることが不可能になっていると論じた。

グテーレス国連事務総長も演説し「ロシアのウクライナ侵攻は、国連憲章と国際法に明らかに違反している」と述べ、ロシアの侵攻を批判した。さらに「ますます多極化する世界で深い亀裂を生んでいる」と、ウクライナに対する被害にとどまらず、世界を亀裂へと向かわせていると述べた。

ウクライナは、この戦いを自分たちの主権のためというだけでなく、民主主義そのもののための戦いであると主張し、国際社会の協力の必要性を訴えている。

国連に大いに期待を抱いている発言であり、日本国内でも「国連が本来の役目を果たしていない」といった発言が多々聴かれるところである。では、国連は戦争を止める機能や、新たな戦争発生を防止する機能を有するのか確認したい。

妥当な理解と判断をしないと、過剰な期待によって事態の悪化を招いてしまうこともあるので、正しい理解が必要である。

では、ロシア・ウクライナ戦争から再度確認したい。そもそもウクライナの安全保障の枠組みは、ソビエト連邦崩壊後の1994年の「ブダペスト覚書」に基づくものであった。

その署名国は、ウクライナ・ロシア・アメリカ・イギリスであり、その覚書によると「ウクライナは自国領内に残る核兵器を放棄する。それと引き換えにロシア・アメリカ・イギリスが、ウクライナの領土的一体性を尊重し、安全を保障する」との内容であった。  

▲1994年の三極声明署名 写真:ウィリアム・J・クリントン大統領図書館 / Wikimedia Commons

しかし、この枠組みはNATOのような条約に基づく共同防衛体制ではなく、署名国はウクライナに対して軍事的な協力をする義務のない覚書であった。中国やフランスも別々の書面でウクライナの安全を保障することにしたが、同じく義務の無い内容であった。

2014年のロシアによるドネツク共和国および、ルガンスク共和国への軍事侵攻が行われ、ミンスク議定書とミンスクⅡが調印されたものの、停戦を約束する議定書であり、新たな安全保障の枠組みではなかった。

ウクライナにとっては、ブダペスト覚書が機能しない以上、頼みとなる安全保障機構は国連だけになる。

国連の成立は第2次世界大戦の再燃を防止するため

しかし、そもそも国連はウクライナの安全を保障する機能を有していたのか。全111条からなる国連憲章は、安保理が平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持、または回復するために勧告をし、必要な措置をとることが記されている。

その措置は安保理の許可がなければ強制行動をとれない一方、敵国であった国に対しての強制行動は例外とされ、許可なく強制行動をとることができる。その敵国とは第2次世界戦争中に国連憲章のいずれかの署名国の敵国であった国のことである。

いずれかの署名国とは、1942年1月1日の連合国宣言に署名し批准した国(原加盟国)、または1945年6月26日にサンフランシスコで連合国会議に参加した国が該当する。当時は第2次世界戦争中であり、国連加盟国にとっての当時の敵国とは、日本とドイツである。

つまり、国連とは安保理が権限を有し、第2次世界戦争の再燃を防止するための枠組みである。基本的に過去に発生した第2次世界戦争の再燃防止、その役割のために創設されたものである。

その後、国連はさまざまな紛争などに対して対応してきたものの、その活躍はPKOに象徴されるように停戦後の紛争国相互の監視などであった。残念ながら現在起きている戦争や、将来起こる戦争を防止するものではないのである。

国連機構創設から80年近くが経過するが、国連憲章の趣旨によって創設された以上、その根本的役割はどうしても根強く残るのである。ゼレンスキー大統領としては、国連そのものに期待できない以上、個別に各国首脳などに対して協力要請を継続して、ロシア・ウクライナ戦争での領土奪還を目指すことが、最も確実かつ必要な行動である。

この世界には超国家政府がないために、国家が相互に紛争や国益の対立を解消する努力をしなければならない。そのためには相互理解がきわめて重要であるが、現在の安保理中心の国連で可能かと言われれば、困難であると評価せざるを得ない。