夏の甲子園で覇権奪還を狙う大阪桐蔭

近年、須江氏が率いる仙台育英が一気にトップクラスに君臨し、今年の夏の甲子園では、その仙台育英と対等に渡り合った大阪の名門である履正社も注目されていた。その履正社に夏の予選で敗れたものの、覇権奪還を狙うのが大阪桐蔭だ。

2022年の世代は、夏の甲子園を除く三冠を達成し、2023年の世代は明治神宮大会優勝とセンバツベスト4に輝いた。

本来なら、この成績を残せば満足いくものだが、高校野球のカテゴリでもプロ野球のように「勝って当たり前」とファンから思われているのが大阪桐蔭だ。

21世紀に入ってからは、間違いなく高校野球のなかで常にトップクラスの強さを見せているが、令和に入ってからは夏の甲子園は制していない。

また、同地区のライバルである履正社は令和初の夏の甲子園王者のため、意識している部分もあるだろう。

近年は、仙台育英が安定した強さを見せているが、今年の夏の甲子園で履正社と対戦。試合内容も終盤までどちらに転んでもおかしくない内容だったため、非常に盛り上がる試合だった。

この試合を見て、監督を務める西谷浩一氏は思うところがあっただろう。

現在の高校野球において、長いイニングを投げられる投手を複数人育成することや、投手から野手まで臨機応変に見せるユーティリティ性は、大阪桐蔭が先駆者といっても過言ではない。

その育成や戦略、マネジメントは秋季大会を見ても健在だ。

投手陣は、今年の春に急成長したエースの平嶋桂知を中心に山口祐樹、中野大虎と森陽樹の1年生コンビがいる。また、現在はベンチ外だが、昨年秋に好投を見せた南陽人はもちろんのこと、中心打者として活躍を見せている境亮陽もいる。

例年、投手の枚数は全国トップクラスだが、この世代の投手陣は前田悠伍を温存していた春先から投げているため、他校よりも実践慣れはしている。

エースの平嶋は大型投手だが、これまでの大阪桐蔭を振り返ると、藤浪晋太郎や川原嗣貴といった大型右腕を世代トップクラスにまで育てた育成力と相性は抜群と言っていいだろう。現在は、大阪大会決勝で履正社の高木大希に投げ勝つなど、イニングイーターとして順調に育っていると見られる。

大阪桐蔭が夏の甲子園を制した年は、2番手投手がイニングイーターでありながら、リリーフもできる投手を育成していることから、平嶋以外の投手の成長にも注目していきたい。

野手陣を見ると、夏の大会で中心選手だったラマル・ギービン・ラタナヤケや徳丸快晴を軸に得点を挙げている。昨年の明治神宮大会でホームランを放っている境や、夏の大会からスタメンに定着した吉田翔輝の1、2番も脅威だ。

徳丸は打撃面はもちろんのこと、守備面では両投げの特性を活かしてユーティリティ性も兼ね備えている。さらに、境も外野手として目立っているが、昨年はマウンドに上がるなど、二刀流としての期待値も高い。

両選手は、打力とユーティリティ性も兼ね備えているが、高校野球における勝利至上主義に最適しすぎて、器用貧乏になることだけは注意してほしいところだ。

このように上位打線が前田世代の大会を経験しているため、大阪大会は野手陣の活躍もあり、順調な試合運びができた。

また、正捕手は1年生の増田湧太だが、仙台育英のようにセンターラインやクリーンアップに一個下の世代を入れることにより、各世代が強さを持続できるようにマネジメントをしている。

夏までの世代は打力に課題を残していたが、この世代は投打ともに充実している。

投手が平嶋に依存していることから、他の投手が成長し、野手陣も下位打線が底上げしていければ、全国制覇も夢ではないだろう。

来年春から低反発バットが導入されるが、西谷氏を含めた大阪桐蔭の対応力にも注目していきたい。

▲仙台育英や大阪桐蔭をはじめ、どの高校が力をつけていくのか注目だ イメージ: 宮坂由香 / PIXTA

プロフィール
ゴジキ(@godziki_55)
野球著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』『坂本勇人論』(いずれもインプレスICE新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)を出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブンなどメディア取材多数。最新作は『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『21世紀プロ野球戦術大全』(イースト・プレス)。X(旧Twitter):@godziki_55