手の皮をズルズルにして伝えた本気

――役作りのために、小型船舶の免許を取得したと聞きました。

アフロ 役作りの意味もあったんですが、プロの人たちに本気で向き合ってもらうために、ひとつ手土産が欲しいなと思ったんです。ミュージシャンが映画の現場に行くって、プロのスタッフから見てどう映るんだろう?って思ったんですよ。たとえば、役者の友達が「最近、俺ドラム叩いてるから、ちょっとMOROHAのライブで叩かして」って言われたら、はあ?ってなるじゃないですか、絶対。

――たしかに。

アフロ でもそいつが、MOROHAでドラムやるために、音楽学校で1年修行してきたって言われたら「ちょっとやってみっか」ってなるかもしれない。だから俺は、プロの人たちの中に入れてもらうときに、本気で向き合うつもりで来てると思ってもらいたかったんです。下手くそかもしれないけど、どうか力貸してやってください、教えてくださいって。そのときに手土産が欲しいなと思って。それが小型船舶の免許だったんです。

――アフロさんなりの本気の伝え方。

アフロ でも、蓋を開けてみれば、本当のプロっていうのは誰が来ようと正面から向き合ってくれる人なんだって思いました。ミュージシャンの俺にも、同じように接してくれるすごい人たちばっかり。それでも、俺のなかで覚悟を周りに示す意味で、小型船舶の免許を取るのは大事なことだったような気がしています。

――ロープの縛り方を覚えたのに、使われなかったエピソードもお聞きしました。

アフロ 手の皮ズルズルになるまでやって覚えたのに、使われなかった。でも、俺の親父役をやってくれた漁師の澤口佳伸さんが、その姿を見てくださっていたんですよね。

――え、父親役の方は、本当の漁師さんだったんですか?

アフロ そう、あの方は島の漁師なんです。澤口さんが、俺がロープの結び方を練習しているところを見ててくれていて「これは本気でやってるから、俺たちも本気で応援しようぜ」っていう話し合いがあったらしいです。

本気の姿を見せたときに、周りの人たちのギアが1個上がるのは、音楽の現場でも起こり得ること。チームで動くときって、周りに頑張ってもらうには、自分が頑張るしかないじゃないですか。これまでの音楽活動で得た経験が活きたかなと思います。

――どのように方言を勉強されたのでしょうか?

アフロ 地元が東北の庄司監督から直接指導を受けました。あと、俺は銀杏BOYZが大好きなので、ちょっとニュアンスが違うんだけど、峯田和伸さんの山形の訛りとか聞いて。でも逆に、ラップで培ってきた武器の滑舌が、今回の作品のなかでは邪魔だったんです。「人と話すときにそんなパクパク喋んないから、滑舌を落としてくれ」って言われて。演技の業界では異例の指令ですよ。

――たしかに滑舌が良すぎると、ナチュラルではなくなってしまいますね。

アフロ 滑舌を落とすためにも、方言があってよかったです。標準語の演技だったら、もっと大変だったかもしれない。

――震災を想起させるシーンもありましたが、どのような気持ちで演じましたか?

アフロ はじめは台本を読んで、現地で体験もしていない自分が、どうやって演じればいいのかと迷いました。実際に、被災をした人の前で歌ったときも、あれ? 何言えばいいんだっけ、慰め。違う。慰めなんか違う、何を偉そうに……とか、めっちゃ思ったわけです。

けど、震災という言葉だと身動きが取れなくなるから、目の前にいる一人にもっとフォーカスをしました。そしたら、その人にとっては震災があった日ではなくて、大切な人がいなくなった、大切なものが壊れた日なんだと気づいて。「それだったら俺もある」となって、初めて何かしら言葉が出てくる。

だから、そういう心積もりを作っていくというのが最初のステップでした。それをちゃんと自分で理解しておかないと、どうしたって勝てない相手と組み合ってる感覚になってしまうから。主人公のアキラは被災したんじゃなくて、大切な人を失って、人生が変えられてしまって迷っているんだってところを、自分の体の中にぎゅっと入れていきましたね。

▲自分なりの役作りについて語ってくれた