外出自粛要請が出され、緊急事態宣言の発令も視野に入れられるなど、日本でも新型コロナウイルスへの対応策が急がれている。しかし、元国連職員の谷本真由美氏によると、日本人の捉え方はまだまだ甘すぎるという――。イギリス在住の谷本氏だからこそ知っている、“日本には伝わってこない”欧州コロナ事情の最前線とは?

欧州とはまったく異なる日本の“空気感”

このところ日本のニュースを独占しているのは、新型コロナウイルスの話題ばかりです。

もちろん私が現在住んでいるイギリス、欧州でも大変悲惨な状況が続いております。日本のワイドショーやネットニュースなどで多少なりとも状況は伝えられているので、ご存知の方も多いことでしょう。

しかし、現在イギリスにいる私からみると、欧州が陥っている“本当の事態”というのが、日本ではそこまでよく伝わっていないのではないかと感じています。欧州と日本では、新型コロナウイルスに対する捉え方に違いがありすぎるのです。

その決定的な違いは日本と欧州の“空気感”です。

日本では週末に外出自粛の要請が出ても、お花見に出かけたり買い物に出かけたりしている人が大勢います。もちろん普段より数は少ないわけですが、店も開いていますし、交通機関もほぼ通常通り動いている。日常生活ではそれほど変わりがありません。 

ところがイギリスをはじめ、欧州ではまったく状況が異なります。欧州では、第3次世界大戦が始まったのとほぼ同じような捉え方をしている人が大半なのです。

私が必要以上に煽っていると思っておられますか?

Twitterで書くような、いつもの冗談だと思われているでしょうか。

違います。

まったく違うんです。

この状況は各国の経済だけではなく、我々が享受している文明そのものを破壊しかねない、恐ろしく、終わりが見えない“戦争状態”なのです。

相手はどこにいるのかわからず、避けようと思っても忍び寄ってくる……。恐ろしい亡霊のような、しかし破壊力は爆撃以上の恐怖の塊なのです。

欧州の人たちからユーモアが消えた

この事態がどれだけ深刻なことかというのは、イギリス人や欧州大陸の人々のリアクションを見ればはっきりしています。

イギリスだけではなく、欧州というのは、そもそも深刻なことがあってもブラックなユーモアで切り返してやり過ごすような人達が多い国です。

特に私が4年間住んでいたイタリアや、よく遊びに行っていたスペインは非常に楽観的で享楽的な人だらけ。 仕事よりも楽しいことを追求する人達なのです。

ところが今回のコロナ騒動では、その彼らからさえユーモアのセンスが一切消えました。ネットやテレビやラジオに蔓延しているのは悲鳴です。 恐怖です。 絶望です。

なにせイタリアでは毎日1000人近くの人が亡くなっているのです。感染症の数も一向に減りません。テレビに映るのは数多くの遺体。そして急ごしらえの、病院とは決して言えない、“野戦病院”となった展示場や遺体安置所になったスケートリンクなどです。

こうした悲惨な事態を目の当りにして、「映画の中の出来事なのではないか」「私達は本当にこの悲惨な状況をこの目で見ているのか」といったようなことを言う人が大勢います。

なぜそんな風に感じるのか。それは、たった3週間前までは欧州のどこの国でもごく普通に生活をしていたからです。

春休みが近かったので、みんなの話題といえば「どこに遊びに行くか」「天気が良くなってきたら、庭をどういう風に手入れしようか」「どこのレストランのテラスは気持ちが良い」というような他愛のない話だったのです。

欧州はこの時期に日がうんと長くなって多くの花が咲き始め、楽しい春と夏が始まる――、一年で一番良い季節なのです。日本と違って花粉症もそこまで激しくはありません。欧州の人々はこの季節と夏を楽しみに人生を生きていると言っても過言ではないのです。

しかし現状はそれとは真逆の状況になってしまいました。