140字小説の解釈は十人十色

――『#140字小説 -「1話30秒」の意味が分かるとゾクッとする話 -』(小社刊)の第2弾が、電子書籍で発売されたましたが、前作との違いについてお聞かせいただけますか?

方丈 ひとこと解説の書き方と掲載場所ですね。SNSと本の違いは、他者の解釈が見えるか見えないかが大きいと思っていて。SNSだとリプライにいろんなコメントがあるので“なるほど、そういう解釈もあるか”と思えるんですけど、本だとそれがないですよね。前作はページのすぐ下に解説を載せていたんですが、今作は巻末にまとめて載せるスタイルにしました。こういうスタイルにして一番良かったのは、字数制限がなくなったことです(笑)。

――たしかに、ページ下だと文字数制限がありますもんね。

方丈 そうなんです。もしかすると、この解説を制限のある文字数で書くのが、前作で一番大変だったことかもしれません(笑)。

――今作で、方丈さんお気に入りの話を教えてください。

方丈 「免許返納」の話ですね。この話はSNSで公開したときも、さまざまな考察があったんです。そんなことまで想像してるの?って驚きました。

――140字という制約がある表現の限界まで行ききってる作品だと思いました。

「俺も、もう歳だ。そろそろ免許返納するかな」
「あなた…」
「その前に…最後のドライブに行かないか?」
「プロポーズも、車の中でしてくれたわね」
「覚えてたのか」
「当然よ」

ドライブを終え、家に戻ると、夫はしばらく運転席を離れなかった。そして「楽しかったなぁ…」と呟き、車を降りた。

方丈 ありがとうございます。この話は「高齢者の運転が危ない」というニュースを見たときに、ドライブや車が生きがいだった人もいるだろうなと思ったんです。まさにドライブが人生、という方が。そういう方が免許を返納するって、すごく大きな決断ですよね。それは、その方の奥様もそうだろうなって。そこから着想したお話です。

――もしかしたら旦那さんは奥さんを殺害しているのか…!? と考えてました。

方丈 (笑)。奥さんを殺害して山に置き去りにしてきたんじゃないかって、考察した方もいらっしゃいましたね。それもひとつの解釈として面白かったので、全然アリだと思います。こういう作品を発表すると、作品の解釈も十人十色なんだと感じますし、ありがたいです。

自分にとって大事なキーワードは「自由」

――ここからは、ミステリアスな印象がある方丈さんの日常について教えてください。

方丈 (笑)。普通なんですけど、社会人の頃と変わったのは、起きてまずシャワーを浴びるか浴びないかですね。社会人の頃はギリギリまで寝ていたいが勝ったので、シャワーを浴びる時間もなくて。今はゆっくりシャワーを浴びて、ゆっくり朝食を食べられるのが本当に幸せです。

――作業環境についても聞きたいのですが、Xで「キーボードでcaps lockを外した」って投稿がおかしくて…(笑)。

方丈 僕は使わないなと思って、キーボードのキーを外したやつですね(笑)。作業環境は、とりあえずブラックのコーヒー、あとバナナが傍らにありますね。

――書くというのは、時間を区切ってするんですか?

方丈 そうですね。とりあえず、1日30分から1時間は140字小説のネタ決めをしているんですけど、思いついてなかったら2時間、3時間と増えちゃうときもあります。よく散歩をするんですけど、そのときに思いついたりすることもあるし、その散歩がキッカケであとから思いつくこともあるし。迷走した時間も含めての発想なんじゃないかなと思っています。

▲方丈さん、お気に入りの散歩中の写真

――趣味はありますか?

方丈 昔からTVゲームが好きなので、それはずっとやってますね。『DARK SOULS』(ダークソウル)というゲームがあるんですが、このゲームのフレーバーテキスト〔ゲーム内に登場する武器・アイテムなどに関する説明文〕には、すごく影響を受けているかもしれません。

――影響というのは?

方丈 全ては書いていないけど、読み手がいろいろ想像できる文章、というところに影響を受けていると思うんです。『ダークソウル3』に「ヨームの大盾」という防具があるんですが、そのフレーバーテキストが

「ヨームは王として一人先陣に立ち
決して揺るがず、その大鉈を振るったという
そして守る者を失い、彼は盾を捨てたのだと」

って言葉なんですけど、これだけで何があったか、この盾の持ち主がどんな人生を歩んできたかとか、こっちが想像できるじゃないですか。今でも時折、ゲームを起動してフレーバーテキストだけ読み返したりします。

――座右の銘はありますか?

方丈 「融通無碍(ゆうずうむげ)」という言葉を意識しています。これは宮本武蔵の生き様や戦い方を含めて「融通無碍」というらしいんですが、『バガボンド』を読んで知った言葉です。「考え方や行動が何物にもとらわれず自由でのびのびしていること」らしいんですけど、この意味を知ったときに、自分が人一倍、自由に対する執着が強いことに気づいたんです。

――なるほど。

方丈 毎日好きな時間に起きて、好きな時間に寝る。それが、どんな旅行やご馳走にも勝る贅沢だと思ってるんです。生活スタイルにおいても、仕事においても、自由というのは自分にとって、すごく大事なキーワードですね。

――では最後に、今後の目標を教えてください。

方丈 まだ誰もしたことがないことをしたい、というのが根幹にあるんです。世の中はいろいろな技術や文化が発達している。140字小説も、そういうなかで生まれたスタイルだと思うんです。だから、YouTubeとかTikTokとか、枠にとらわれずに小説を発信していきたいです。それこそ「融通無碍」、自由に表現していきたいですね。


プロフィール
方丈 海(ほうじょう・かい)
作家。Twitterを中心としたSNSに、140字以内で完結する超短編小説を投稿している。2020年7月から活動を始め、Twitterのフォロワー数は10万人を超える(2022年11月現在)。140字という短い中で意外なオチを展開するスタイルが特徴。ジャンルはミステリー、怖い話、感動する話、笑える話やパロディまで多岐にわたり注目を集めている。Twitter:@HOJO_Kai、Instagram:hojo_kai、TikTok:@hojo_kai、note:https://note.com/hojo_kai/、YouTube:【毎日投稿140字小説】方丈 海