やっとフワちゃんのことを書く権利を得た

――特に思い入れのある話はどれでしょうか?

加納:フワちゃんの話は、ちょっと前だったら書かれへんやったやろなって思います。フワちゃんとはすごく仲が良くて、ずっと遊んだりしてました。フワちゃんがテレビに出始めたときは、すごくうれしかったんです。ただ、自分たちのライブのゲストに呼んだり、YouTubeに出てもらったりというのは、自分の中で“やってはいけないこと”になっていたんです。私がフワちゃんを利用してるように見られるのがイヤで。

当時のライブシーンでも「フワちゃんと仲いい」アピールをする芸人があふれかえってたんですよ。そういうもんですよね、売れたら親戚が増えるとか聞きますし。でも、私のほうが先輩だし、自分がそうなるのはカッコ悪いなと思って。そんな時期を経て、自分がちょっとずつお仕事をもらえるようになって、今だったら利用してるんじゃなくて、本当に友達としてフワちゃんのいいところを書けるんじゃないかって。

エピソードもいっぱいあったし、いつでも書ける状態ではあったんですけど、ようやく「権利を得た」という気持ちになって書けたって感じですね。時間はかかりましたけど。

――個人的には「バスク」〔加納と阿久津大集合が主催していたライブ〕を見に行ったことがあって、その話がとても印象的でした。

加納:バスクは、私の中では本当に大事なライブだったんですけど、自分がこれについて書けたことにビックリしました。

――そうなんですか?

加納:バスクについて書いたことによって、“バスクが正式に過去になったな”って感じました。

――はあ~、なるほど!

加納:寂しさがありますね。今までは延長だったというか、ちょっと前に出てたライブくらいの気持ちだったんですけど。ライブに出てた人もみんな売れて、辞める人は辞めて……。今までは、うちらのファンだったら絶対にバスクに来てくれてたけど、最近のファンはバスクのことを知らないということもあって、“過去になったなぁ”という気持ちですね。

――ケリをつけたみたいな気持ちもあるんですかね。

加納:そうですね、それもあるかもしれないです。

▲このエッセイを書いたことで“バスクが正式に過去になったな”って感じました

――加納さんは小説も書かれていますが、今回のようなエッセイ、フィクションの小説、お笑いのネタ、それぞれ共通することや違いを感じる部分ってありますか?

加納:分けるとしたら、「エッセイ」と「小説・ネタ」ですね。小説とネタは創作なので、頭の使い方が違いますし。ネタを書くためにノートを開くと、真っ白じゃないですか。毎回“真っ白やで~”って思うんですよ(笑)。

創作ってある種の神聖さを感じるところがあって。ホンマに何もないところに、私が今からなんか考えて書くって、面白いなあって新鮮に思う気持ちが毎回ありますね。エッセイは“なんかあったかな?”って考えて、“せやせや”って書き始めるものなので、創作とは違いますね。

――書くためのメモを取ったりはするんですか?

加納:最近はメモするようになりましたね。仕事が増えてきて、思考があっちゃこっちゃ行くことが多くなって本当に忘れてしまうので、メモを取るようになりました。

――自分のエッセイを読んでみて気がついたことって何かありますか?

加納:私、ご飯にあまり興味がないんだなってことですね。中華について書いたりもしてるんですが、読み返してみると「食った」くらいしか言ってなくて。食事に興味がある人は、ちゃんと何を食べたとか味の感想とかを書くと思うんですけど、「中華」って書いてるくせに味の描写も全くないですし(笑)。

心に残っている言葉「明るさは知性だ」

――このエッセイを読んでもらいたい人を一人挙げるとしたら、どなたですか?

加納:本音を言うと、さくらももこさんなんですよね。読んでほしいというか、会いたかったですね。

――絶対にAマッソのこと好きだと思いますよ。

加納:いや、どうなんですかね? ホントですか? それも聞きたかったですね。昔、M-1の予選を見に行ってるっていう噂が流れたことがありましたけど。

――お笑いが好きだったらしいですからね。座右の銘とか、人に言われて心に残ってる言葉ってありますか?

加納:どこかに書いたかもしれないんですけど、米粒写経の居島一平さんが言ってた「明るさは知性だ」という言葉ですね。場を盛り上げてくれる人とか、空気が滞ってるときに率先して何か喋れる人って、「明るい」とか「コミュ力ある」って、イジるノリで言われることもあるんですけど、結局は知性だと思うんですよね。居島さんも、ものすごく明るい人ですけど、それを知性と思っていることもカッコイイです。

――それを聞くと、加納さんがフワちゃんのことを初対面から好きになったというのもうなずけますね。カラオケにみんなで行って、1曲目をすぐ入れて歌える人ってカッコイイなと思いますし。

加納:私もそう思います。高校生の頃に10人くらいでカラオケに行って、入った瞬間に曲を入れたヤツがいたんですよ。そのときに“こいつには勝たれへん”って思いましたし、さらにそいつめっちゃ歌ヘタやったんですよ。

――ははははは(笑)!

加納:だから自慢したいわけでもないんですよ。こいつがこの場において一番カッコイイって思いましたね。

▲カラオケで“こいつには勝たれへん”って思いましたね