緑の血が流れる東京ヴェルディ

東京ヴェルディが最後にJ1で戦った2008年。

先日のJ1昇格プレーオフでキャプテンとしてチームを牽引した森田晃樹選手は、まだ8歳でした。今季のチームを支えた緑の血が流れる戦士の多くは、J1で戦うヴェルディの姿をはっきりとは覚えていないでしょう。

それでも、幼少期から読売ランドで憧れの選手たちを見ながら育った彼らは、ただの常勝ではない、相手を翻弄しての常勝こそヴェルディであると、子どもの頃から『緑のプライド』を育んできたことは容易に想像ができます。

それくらい、育成年代のヴェルディは圧倒的な上手さを持っていました。

小学生時代、「うちの地元で最強だった三菱養和が勝てないチームがあるらしい」という、想像を絶する事実を叩きつけたのが、ヴェルディジュニア。

僕と同い年でヴェルディといえば、天才・富所悠(現FC琉球)でした。少年団の仲間で一番上手くて小6から三菱養和に入ったケイタが「富所を囲んだらさ、急にフワって浮かして俺の膝にボールぶつけて、“え?”ってなった瞬間、跳ね返ったボールを俺と味方のあいだを通して抜いていったんだよ。あれ絶対狙ってやったよ」という逸話は、僕にヴェルディの10番とはそういうもの、という印象をつけるのに十分な衝撃がありました。

ヴェルディの10番は、いつの時代も天才と呼ばれ、どこか相手を斜に構えて見ていて、めちゃくちゃ上手くて、ちょっとイヤなやつ。それが僕が持つ『緑の血が流れる選手』の印象です。

そんな緑の血を僕が最も間近で体感した日は、僕のサッカー人生で最も何もできなかった日です。

大学時代の国士舘大との練習試合、僕のマッチアップは久保木さんという中学・高校とヴェルディ育ちの選手でした。

格上に対して、毎回寄せ方を変えたり、足を出したり出さなかったり、味方との距離感を変えたり、手を変え品を変え粘り強く守る僕を、全て初見で打開。七色の剥がし見せつけた久保木さん。

毎回スピードでぶち抜かれるなら、正直まだ納得がいきます。でも、久保木さんは毎回パターンを変えて打開していく。

「これぞ対ヴェルディ」と気持ち良くなるくらい翻弄され、最後はサイドチェンジをクッションコントロールして、そのまま僕を背中で抑えたままリフティングしてから抜いていきました。

やっぱり緑の血が流れる選手はイヤなやつです。笑(久保木さん、大人になって会ったらイイ人でした)

だからこそ、16年間J2にいようが、僕の中でヴェルディ育ちの選手はいつまでも憧れの存在でした。

しかし、ここ十数年のヴェルディは名門と呼ばれた過去から長い時間を経て、経済的にも潤沢といえるチームではなくなっていました。それでも次々と育つ緑の血が流れる有望な選手たち。

気がつけば、ヴェルディアカデミーは日本一Jリーガーを輩出する育成組織になっていました。それでも、ついぞ誰も昇格を成し遂げられないまま、みんなJ1のチームに移籍していきました。

しかし、今季のヴェルディには『王様』がいました。これぞヴェルディ育ちというプレーをするゲームメーカー。23歳の森田選手には昨シーズンもJ1からオファーがあったなかで残留、今季はキャプテンマークを巻き、チームを牽引してきました。

ちなみに、僕の少年団の後輩です(とはいえ、小2からヴェルディなので血は真緑。後輩というか、地元の子がんばれという認識)。

そんな森田選手を擁するヴェルディは、2023年のリーグ戦を3位でフィニッシュ。昇格プレーオフ準決勝でジェフユナイテッド千葉を退けて、決勝に進みます。

そして、決勝の相手はリーグ戦4位の清水エスパルス。ついに、J1まであとひとつというところまで辿り着きました。

僕はどちらにもサポーターやスタッフ・選手の知り合いがいるため、この試合をスタジアムで見ることはできないと思っていましたが、W杯のときにお世話になった友達で、生粋のヴェルディサポーターであり、元ヴェルディスタッフのユウトくん夫妻に誘っていただいたこと。

また、エスパルスサポーターで、これまたW杯のたびにお世話になっているバシさんの投稿『J1との入替戦でないPOなんて、エンタメと金儲けのためでフットボールの本質ではないので、昇格枠が3つならば素直にもう1つの枠はヴェルディに与えられるべきだと思う。ただ、それでも申し訳ないけど、J1に戻りたい』という言葉に核心を突かれた気がして、ヴェルディを応援することに。

12月3日、試合会場は国立競技場。

▲スタジアムに集まったサポーター(写真:本人提供)

新国立の木を基調としたデザインは、ヴェルディの緑のユニフォームがよく映え、「ヴェルディには新国立が似合う」とすら思いました。

観客動員は53,264人。ユウトくんいわく、こんなに入ったのは2003年のレアル・マドリード戦以来。しかも、今回はエルブランコではなく、ヴェルデ(緑)に染まる観客席。

誰もが緑の復権を期待しています。

多くのヴェルディアカデミー出身者が観戦に来たり、SNSで応援。なでしこジャパンのベレーサ育ちのメンバーも応援投稿をするなど、緑の血が流れる一族の一生薄れないファミリーのつながりを感じます。

こんなにも世代を超えて同じ哲学が染みつき、そのサッカーを愛するファミリー、バルセロナとヴェルディ以外に僕は知りません。河野さんや久保木さんもそうですが、『俺のヴェルディ愛してる』はファミリーの総意なのだと感じます。