5万人を超えるサポーターたちが集結
そしてキックオフの笛が吹かれました。
ヴェルディが勝てないとき……それは上手いけど、軽い、それゆえに過失が生じて綻びが生じる、または相手のパワーに沈む、だいたいそんな印象です。しかし、今季のヴェルディは城福浩監督のもと、闘えるチームになっていたことが躍進の理由でした。
個で勝るエスパルスにキックオフから押し込まれる立ち上がり。我慢の展開が続きます。お互い決定機が少ない試合展開で、引き分けが頭をよぎり始めた63分、相手の浮き玉のパスに対処しようとした森田選手の手にボールが当たり、PKの判定。
ずっとチームを引っ張ってきて、この試合も中盤で相手をいなしてはパスを捌いていた天才・森田選手に、この不運……。サッカーの神様は残酷です。
チアゴ サンタナ選手が、このPKをしっかりと沈めて、エスパルスが先制点を取ります。その後、すぐに5バックを引いた清水は盤石でした。中盤ではヴェルディにボールを握られるものの、完璧な守備でほとんどチャンスを作らせません。
ダイレクトパスで中盤を崩そうと試みるものの、巧さはあれどパワー不足でなかなかゴール前に進めない。
「ヴェルディらしく散っていくのか……」
客観的に見ても、ここまでかな……と、正直思いました。
そんな劣勢のチームを救ったのが、染野唯月選手でした。鹿島アントラーズからレンタル移籍中で、ヴェルディで育つ選手とは一線を画す高さやスピードで勝負できる選手です。染野選手はPK献上後、動揺が隠せない森田選手に強い口調で檄を飛ばして蘇らせたそうです。
そして、こちらもセレッソ大阪からレンタル移籍中の中原輝選手の鋭い縦パスに抜け出すと、素晴らしいファーストタッチで縦に加速します。
とはいえ、清水守備陣は人数が足りていて、シュートコースもそこまでない。ゴールにつながる可能性は低いです。しかし、ヴェルディサポーターにとってはJ1へ垂らさられた細い蜘蛛の糸。歓声が沸き立ちます。
対応したのは清水の高橋祐治選手。ペナルティエリア内でスライディングを試みるも、染野選手を倒してしまい、判定はPK。乾貴士選手がインタビューなどで言及されている通り、状況を把握できていれば、スライディングの必要はなかったようにも見えます。
ペナルティエリア内の状況を高橋選手が自ら確認することが難しいなかで、キーパーからもそう指示が出ていたことは間違いないでしょう。
しかし、これは推測ですが、5万人を超える観衆の声が指示をかき消した可能性もあるのではないでしょうか。
3位で勝ち取ったホームアドバンテージをサポーターが活かした。サポーターなんだから、都合のいい解釈をしてもいいと思います。
そして、高橋選手のスライディング自体はボールに向かっていました。でも、染野選手がゴールになる可能性を求めて、スライディング瞬間にコースに足を置いてボールを守ったようにも見えました。PKをもらう技術です。
僕の隣で見てた友人は「染野、少年団の後輩なんです」と泣き出しそう。
「小さな町で育った染野がPKを蹴るなんて心臓が持たない……」。森田選手も染野選手に近づきます。
続けて僕が言います。「森田くん、少年団の後輩なんです……これで森田くんが蹴るなんてこっちの心臓が持たない」と。そんな情けないOBおじさんたちを尻目に、染野選手がPK決めて同点に。そして、そのまま試合は終了。レギュレーションにより、ヴェルディが昇格を決めました。
シーズン3位を勝ち取ったことが、ここで明確に響きました。また経済的に苦しくても、育成の伝統だけは守り、今日のピッチには一時、ヴェルディアカデミー出身者が6人並び立ちました。(エスパルスの神谷優太選手はノーカウント)
エリートとして育った彼らには、16年間J2という事実は耐え難いものだったと想像できます。
ヴェルディの育成の歴史と、緑の血に足りなかった力強さが組み合わさった今年のチームによる最高の昇格劇です。
〇【東京ヴェルディ×清水エスパルス|ハイライト】2023 J1昇格プレーオフ 決勝
しかし、染野選手の先輩であり鹿島ファンの友人と、浦和ファンの僕は、誘ってくれたヴェルディファンのユウトくん夫妻に
「でも、J1来ちゃったら応援できないな」
「カテゴリーが違うから頑張れって思えるんだよな」
と、あっさりと宣言して帰ったのでした。
ヴェルディには強くあってほしいって、ずっと思っていたけど、J1に来たからにはこっちのが上。今度はこっちがイヤなやつ、やらせてもらいますよ。
みんなもきっと楽しみにしています。埼スタで、鹿島で、ノエスタで、日産で、トヨタで、デンカで、札幌で、京都で、GIONで、熱く燃やせ。緑のハート。