普段は表に出ることがほとんどない芸能事務所のマネージャーという仕事について、本人たちが語った書籍がある。『芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら』(小社刊)は、木村佳乃・中村倫也・佐々木希・松坂桃李・菅田将暉・萩原利久・杉野遥亮・夏子・TAKAHIROらが所属する株式会社TopCoat(トップコート)のマネージャー陣が、自分たちの仕事について語っている。

ニュースクランチでは、この本に登場するチーフマネージャーのMさんと、現場マネージャーのFさんに、どんな経緯でマネージャーという職に就き、アーティストと向き合い、仕事に取り組んでいるのかをインタビューした。

日本アカデミー賞での松坂桃李のスピーチがきっかけ

――芸能マネージャーという仕事に就かれる方が、どんな幼少期を過ごされたのかが知りたいのですが、Fさん、Mさんはそれぞれどんなお子さんでしたか?

F 私はいわゆる活発なタイプで、スポーツばかりやってましたね。水泳・バスケ・バドミントン……中学にはバドミントン部がなかったので、バドミントンをやっていたメンバーでハンドボール部を作ってました。ただ、スポーツと同じくらい興味を持っていたのがエンタメで、特に映画に魅了されてました。父は邦画やアニメ、母は洋画が好きで。小さい頃から映画は常に身近にありましたね。

M 僕は本にも書いたんですけど、もうモテたくてしょうがない(笑)。そんな学生生活を送っていたんですが、野球をしていたので野球中心の生活をしながらも、やはり休み時間とかは僕も含め、話題はテレビなんですよね。バラエティでもドラマでも、見ていないと話題についていけないという時代でした。僕はすごくテレビっ子だったので、“昨日のアレ見た?”みたいな感じで盛り上がってましたね。

――今でも印象に残ってる番組はありますか?

M 『踊る大捜査線』ですね。たしか火曜日に放送されていたんで、水曜日の朝は「今後どうなると思う?」とか同級生と話していたのを覚えています。

――ご両人とも、身近にエンタメがある環境だったということですが、なぜマネージャーの道に進まれたのでしょうか?

F もともと映像美術の会社で勤めていたのですが、そこから独立してフリーで活動して、自分で仕事を取ってきたり、作業も自宅で一人でやるっていうのを経験したんです。そこで改めて、誰かと話したり一緒に仕事をするという環境に戻りたいなって思ったんです。まだコロナ前だったので、それがコロナ禍だったらまた違ったのかもしれないのですが……誰とも会話せず、ただただ作業に没頭するというのが、ちょっと苦痛に感じたんですね。

――そこから映像美術の会社に戻る、という選択肢ではなく、マネージャーを志したのはどういうきっかけだったんですか?

F 日本アカデミー賞で松坂桃李さんが映画『孤狼の血』で最優秀助演男優賞を受賞されて、「この喜びを誰に伝えたいですか?」という質問に対し、「マネージャーさん! やりました!」っておっしゃったんです。その当時、“次はやってみたいことを仕事にしてみたい”と思っていたので、“マネージャーという仕事もあるんだ”と気づいたのがきっかけですね。

M 僕も“マネージャーになろう!”という強い志があったわけではなくて。料理人を目指していて、実際にレストランで働いていたんですが、腰を悪くしてしまって、立ち仕事がちょっと難しいということになってしまったんです。それで求人を見ていたら、マネージャーという仕事が目に止まったんです。

僕が目指していた料理人は職人的な仕事ですが、マネージャーという仕事は、ひとつのことに多岐にわたる関わり方をする仕事に感じたんですね。専門的な世界に入るより、自分の世界が広がるような気がして、毎日刺激的な生活を送れるんじゃないかと思ったんです。

――この流れでお聞きしますが、実際に入ってみて、イメージと違ったところはありますか?

F やはり、想像以上の激務ですね。実際に作業していなくても、起きている時間は常に仕事について考えておかないと、とてもじゃないけどついていけないと思いました。

M ずっと料理をしていたので、感情のあるものと向き合わないといけないことの大変さが身に沁みてわかりましたね。あと、幼少期は人付き合いが得意なタイプだったんですけど、高校くらいから本当に苦手になってしまって、そういうヤツがマネージャーという仕事をやっちゃダメだろ!って、今になって冷静に思い返します(笑)。

――いえいえいえ(笑)。でも、逆にそういう経験しているからこそ、陽の人、陰の人、どちらの気持ちも理解できるんじゃないかなと思いました。

M 良いように受け取っていただけるとありがたいですが…(笑)。

F 私は今まさにそんなことを考えてますね。一人での仕事がイヤで会社に所属したんですけど、かといって人付き合いが上手なタイプかというと、そうではなかったなって(笑)。例えば、ほかのマネージャーを見ていても、“マネージャーになるために生まれてきたんじゃないの!?”というくらい、人付き合いも良い、別け隔てなく明るい方がいらっしゃるんです。そういう方を見ていると“私、向いているのかな……”と思ってしまいます。

M それでもこうして仕事できているんで(笑)。“私、明るくないから向いてないかな”と思うのはもったいないなと思います。

現役マネージャーが明かす“マネージャーに向いている人”

――例えば、どういう方がマネージャーに向いていると思いますか?

M その場の空気を明るくするムードメーカーは向いているかなと思います。

F 人たらしの方が多いかなと思います。

M かと言って、当然ですけど、アーティストを押しのけて前へ前へって方は好かれないですね。

F そうですね(笑)。

M 先ほど人付き合い云々の話が出ましたけど、たとえ明るくないとしても、ツッコミやすい空気とかキャラクターがあれば、その場が明るくなるのでいいかもしれないですね。

――普通自動車の免許は必要なんだろうな、と思いました。

F ああ、それはそうですね。自動車免許は持っているスタッフが多いです。

M 「文系がいいのか、理系がいいのか」っていうのも聞かれることがあるんですけど、どっちの要素も求められますよね。

――お話を聞いていて、やはり俳優のマネージャーって、歌手とか芸人のマネージャーとはまた違うんだろうなと思いました。

M そうですね、そこはそう思います。モデル、俳優、CM、ナレーション、書く仕事やインタビューなどさまざまなジャンルの仕事ををいただくこともある。だから、マルチに活躍すればするほど、その仕事を適切に遂行していかないといけないので、時間は足りなくなりますが、すごく鍛えられるとは思います。今は時代も変わったので、昔ほどの激務というのはなくなったかもしれませんね。

F 人付き合いの話を先ほどさせていただいたんですけど、じゃあ自分がどういうところで努力できるかなと思ったときに、トレンドをしっかりと知っておこうと思ったんです。今は女性アーティストを担当しているんですが、彼女たちはいろいろなことを貪欲に吸収しようとする姿勢があって、なおかつ、さまざまな現場があるので、多様なことを耳にする機会が多いんです。それでも、自分が知らないことは私に聞いてきてくれるんです。

「〇〇〇って知ってますか?」とか「今、これが流行ってるみたいなんですけど、知ってますか?」とか。それが次から次へと出てくるんです。本当であればそこに全て答えられるのが理想ですけど、それは難しいので、もっとアーティストに近づいて、さまざまな情報を仕入れて、傾向と対策のようなものをしようと思ってます。

――それって、人に言われてもできないですよね。

F いえいえ。今日も、映画を見てコメントを言う、という仕事があったんです。その場合、必ずしもマネージャーはその映画を見ておかないといけないわけじゃないですが、やはり「この映画、見ました?」と聞かれるんですね。だから自分で見たなりの感想を伝える。「見てないです」と答えてしまうと、そこで話が終わってしまうので。

アーティストが作品に出たときに「このセリフにはどういう意図があるんでしょうね」とか「自分の演技、どうでしたか?」と聞かれたときに、きちんと自分で言葉で、自分の感想で伝えてあげたいと思っているので、そこと地続きになっているとも思います。