山に入るときに取るべき対策は?

――実際に熊に遭遇した場合、どのような対応をすべきでしょうか?

佐藤:家の近くだったら家に入る、建物があったら建物に入るがいいと思います。山などで会ったら、目を離さずに後ずさりするというのがいいでしょう。昔から言われている「死んだふり」はあまり意味がないので、やらないほうがいいですね。

熊から目を離さずに、背負っているものがあれば投げ捨て逃げる。荷物を投げ捨てることで、熊がそちらに意識を向ける可能性もゼロではないので。追いかけられた場合、逃げ切れることは難しいですが、自分も身軽になりますし、少しでも生きる確率を高めるには、荷物も捨てることも手段のひとつです。

また、万が一襲い掛かられた場合、諦めずに最低限の抵抗することが重要です。棒切れや石ころ、または自分のげんこつで反撃(熊の頭や体を叩くなど)して、熊があきらめて逃げて行ったというニュースもありました。

もちろん、これだけ騒がれているので、山に入るときはそれなりの対策をするべきだと思っています。熊スプレー、ベアホーン(大きい音を鳴らす道具、3000円程度)などです。仲間の銃砲店の人でも、山に入り林道で熊に遭遇して、熊スプレーで撃退したという人もいます。

ただ、熊スプレーはカプサイシンエキスが凝縮されたものが何メートルも飛ぶんですけど、風向きによって方向が変わり、自分にかかってしまう場合があります。ベアホーンは、音を鳴らせば風向きも関係なく、自分が遭難したときにも知らせられる、という利点もあります。

――音といえば、昔から使用されている、登山などで鈴やラジオを身に付ける効果はあるんでしょうか?

佐藤:どちらもお勧めできません。ラジオや鈴の音が鳴っていると、逆に「ガサッ」みたいな音、周囲の動物の気配が感じられなくなっちゃうんですよ。それに、ラジオや鈴が鳴っていても、お腹がすいていたら寄ってくると思います。

――今後も熊による被害は増えていくのでしょうか?

佐藤:波がありながらも増えていくと思います。子どもは親のマネをしますが、それらの熊が全部、大人になるまで生きるわけでもない。なので、熊が増えるスピードは遅いと思います。

地球全体の温暖化なんかもそうなんですけど、冬でも暖かかったり、すごく寒かったりと、その年によって違いがありますが、全体的には暖かくなっている。熊に関しても被害が多い年ばかりではないですが、よほどのことがない限り、今後も増え続けていくんじゃないかなと思います。

(取材:佐藤 文孝)


プロフィール
 
佐藤 一博(さとう・かずひろ)
有限会社豊和精機製作所代表取締役。公安委員会指定射撃指導員(空気銃・散弾銃・ライフル銃)。ライフル銃から麻酔銃まで幅広く修理販売改造をするガンスミスであり、20年間布団で寝ていないアウトドア研究家。狩猟歴21年、ジビエ料理にも造詣が深い。6歳の頃から焚き火をし、13歳で初めてソロキャンプ(家出)を行う。24歳の頃から時短キャンプ料理の研究に勤しんでいる。X(旧Twitter):@HowaSeiki、公式サイト:豊和精機製作所