団塊世代が75歳以上の後期高齢者となることによって起こる「2025年問題」が目前に控えている。すでに高齢者がトラブルに見舞われるケースは頻出しているが、今後はより増加するだろう。そのなかでも、結婚していなかったり、結婚して子どもはいるものの遠方に住んでいたりなど、頼れる人が近場にいない“おひとりさま”はあらゆる困難に遭遇しやすい。

昨年11月に『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)を上梓した司法書士の太田垣章子さん。この本では、おひとりさまが直面しがちな問題、その対処方法がわかりやすく解説されている。ニュースクランチのインタビューでは、本格化するおひとりさま社会を迎えるにあたって、「遭遇しやすいトラブルは何か?」「結婚はしておいたほうがいいのか?」などを聞いた。

▲太田垣章子【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

70歳を過ぎると部屋を借りることが難しい

太田垣さんによると、おひとりさまだからこそ起きるトラブルは「住宅関係が一番」とのことだ。

「『認知症になったときに、どのように対応すればいいのか』『そもそも家賃を継続して払ってもらえるのか』など、不動産会社としては不安要素が多いため、70歳を過ぎると新たに部屋を借りることはとても困難になります。たとえ空室が目立つ物件でさえ、例外ではありません。

また、“ゴミ屋敷になりやすい”という問題も起きがち。1人で暮らしていると、どうしてもズボラになりやすく、ゴミをゴミ箱に入れること、分別日を確認してゴミ捨て場までゴミを捨てに行くことなど、若い人でも面倒ですよね。高齢者になると体を動かすことが難しくなるため、ゴミが部屋に溜まってしまうのです」

部屋を借りられるかどうかという問題、無事に借りられたとしても新しい問題が発生する。若い頃には想像もしないような問題が相次ぐため、いざ直面すると貸主も本人もパニックなってしまう。事前に“年を取ったらこういうことがある”という情報を知っておくだけれでも安心感につながりそうだ。

少子高齢化が進行している日本、おひとりさまに関するトラブルの頻出は、当然と言えば当然である。ただ、日本特有の価値観も大きく影響していると太田垣さんは指摘する。

「一昔前ですと、高齢化した親を4~5人の子どもたちが分担しながらケアすることが一般的でした。しかし、未婚者の増加や、結婚したとしても子どもが何人もいる家庭は減りました。そのうえ、子どもたちは地元に残らずに都市部で暮らすケースが多くなりました。以前に比べて1人当たりの負担が増え、気軽にケアできなくなったことも大きいです。

もちろん、福祉サービスなどはあるにはあります。ただ、“親は子どもがケアすることが当たり前”という価値観がある親自身が、福祉サービスを利用することなく親のケアをしてきたため、福祉サービスの情報を親から教えてもらうことはありません。親世代も下の世代も、おひとりさまに関する予備知識がないのです」

40~50代でも「おひとりさまトラブル」はある

「2025問題」が近づき、後期高齢者が急増することが懸念されているが、太田垣さんは団塊世代だけではなく違う世代も気にかけている。

「就職氷河期の人たちは一番年上で50代になります。この世代は独身率が高く、雇用も不安定。また、家族仲が悪いケースもあり、何かしらのネガティブな要因を抱えています。おひとりさまに関するトラブルは何も高齢者に限らず、40~50代も例外ではありません。今後、トラブルに巻き込まれる人が増加するかもしれません」

後期高齢者だけではなく、“潜在的なおひとりさま”が多いのかもしれない。判断能力があり、フットワークが軽い時期から老後については考えておきたい。

今は元気でも、数年後に認知症や知的障害などによって判断能力が低下することも考えられる。そうした状態で、おひとりさまになったときのために、後見人制度の利用を検討したい。後見人制度は、「法定後見制度」と「任意後見契約」の2つある。

「法定後見制度は、判断能力が落ちたときに利用され、もはや本人の意思を確認できないため、大きなお金が動くことに後見人も消極的になります。また、後見人は家庭裁判所が選ぶため、親族の意思が尊重されることもありますが、全く面識のない弁護士や司法書士などが務めることもあります。

そのため、法定後見制度で任命された後見人がトラブルを起こすケースは珍しくなく、昨年11月には後見人を務めた弁護士がお金を着服していたニュースもありました」

法定後見制度のデメリットを強調した一方、任意後見契約制度について説明する。

「任意後見契約制度は、判断能力があるときに自分で後見人を決めます。本人が自分の意思で前もって​託しておくため、判断能力がなくなったときに、自分の意思の通りに進めることができるのです。

例えば、本人が判断能力の低下のために入院した際に、後見人がいないために当事者の預金は使えず、仕方なく子どもが自腹を切って介護費用や病院代を出すというケースは少なくないのです。任意後見契約制度で後見人を事前に決めておけば、そういった事態を避けることができます。本人だけではなく親族にとってもありがたい制度です」

任意後見契約制度のメリットが見えてきたが、あまり聞き慣れない制度ではある。太田垣さんによると「じつは2000年から施行されており、それなりに歴史のある制度です。ただ、日本では長らく“親のケアは子どもの仕事”という認識があり、社会福祉関連のサービスや制度はあまり周知されていないのが現状なのです」と語った。