2002年、10代で俳優としてデビューした速水もこみち。2005年に『ごくせん』第2シリーズで一躍ブレイクし、それから20年以上にわたってドラマを中心に数多くの作品に出演してきた。

一方で、日本テレビの朝の情報番組『ZIP!』では、2011年から8年間も料理コーナー『MOCO'Sキッチン』を担当。そのプロ級の料理の腕前が世間に知れわたった。現在もABCテレビで放送中の『食材探求ロードムービー 頂!キッチン Season3』を筆頭に、さまざまなコンテンツで自身のレシピを紹介するなど、料理の仕事でも着々とその活躍の幅を広げている。

俳優と料理の道を見事に両立させている彼だが、ここまでに至る人生の土壇場とは?

▲俺のクランチ 第45回-速水もこみち-

青天の霹靂だった芸能界デビュー

高校時代にスカウトから芸能界に入った速水もこみち。ずば抜けたルックスの持ち主だけに、“家にわざわざ事務所のスタッフがスカウトに来た”というそのデビューの経緯は、どこか伝説的に世間で受け止められてきた。そもそも「芸能界にはあまり興味がなかった」という速水は、スカウトを受けてから事務所に入るまで、半年もの時間がかかったという。

「じつは、うちの事務所のスタッフの友達の方が、僕の実家のご近所さんだったんです。その方が“背が高い、こういう子がいる”と事務所に紹介してくれたことが、そもそものきっかけだったんです。でも、当時はまだ学生ですし、仕事よりも遊んでいるほうが楽しくて最初はお断りしていたんです。

だけどある日、学校から帰ったら家に事務所の方が来ていて……。そこから所属に向けて話し合いが始まりました。一番最初に連れて行ってもらったのは、『ごくせん』の第1シリーズの現場で。“じゃあ、ちょっと体験してみようかな”という気持ちからのスタートでした」

子どもの頃から料理が好きだったこともあり、当時は「料理関係の仕事に就くんだろうと漠然と考えていた」という。芸能界デビューは青天の霹靂だった。『ごくせん』の第2シリーズで大ブレイクしたときも「下積みもないのに……という申し訳なさがあった」と話す。

「デビューして間もない、何もわからないときに現場に放り込まれたような形で、自分が何もできなさ過ぎて、それはショックを受けました。でも、わからないなりに、こんなにたくさんの人たちの力で、ひとつの作品が出来上がるんだっていう驚きは感じました。なにより、そんな経験はしたことがなかったので、みんなで作り上げる楽しさを知りました」

スターとして引く手あまたとなった速水は、さらに多くのドラマに出演。若いうちから主演を任される立場になったが、プレッシャーはなかったのか。

「いろんな人が背中を押してくれていたので、“期待に応えなきゃ”という思いはありました。でも、どうしても当時は、自分が考えていることと、やろうとしていることとのズレがあって、気持ちが追いつかなくて。自分でも“うまくいかないだろう”とわかっていることでも、やらざるを得ないことが演技のお仕事をするうえでたくさんありました。

だから、とにかくガムシャラでした。何年か踏ん張ってみようと。そうやって経験を積んでいくうちに、頭での考えと自分の心とを一致させるやり方が、ちょっとずつわかるようになっていきましたが、その道のりは大変でした」

倍賞美津子さんとの出会いで役者業に変化

芸能界に興味があったわけではなかったが、あっという間にスターへの階段を駆け上がったことで、速水は土壇場を経験することになった。そこからのターニングポイントになった作品が、2007年に放送されたドラマ『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』。

リリー・フランキーの同名小説を映像化したもので、倍賞美津子と親子の役を演じた。彼女との出会いによって、彼の中での芝居に対する思いが大きく変化したという。

「倍賞さんとお会いしてアドバイスをいただいてから、スラスラとセリフが覚えられるようになったんです。いや、覚える以上のものを教わったんだと思います。“私たちは親子なんだから(胸を指して)ここでキャッチボールをしましょう”と言っていただいたんです……。じつは、僕は今でも演技で泣くのが苦手で、ドライアイ過ぎて涙が出てこないんです(笑)。

だけど、倍賞さんとのシーンでは、自分でも怖いくらいに自然に泣けちゃって。倍賞さんが演じる母親が病気で亡くなる、という設定だったんですが、活字になっているセリフがちゃんとあっても、それがうまく言えないくらいにリアルな感情が湧いてしまったんです。何かの領域に入るというか、一線を越えるような感じがありました」

そこから芝居が楽しくなったか? と問うと「仕事としては楽しいけれど、自分は苦しんで芝居をするタイプ」だと答える。芝居に対してどこまでも真面目なのは、彼のキャリアがスカウトで始まり、追い込まれたところからのスタートだったから。若い頃にいろいろな経験を乗り越えていく際に、苦しみのなかでもがきながら表現を生み出していくしかなかったのだ。

「台本を読むときも、いまだに作品のオファーをいただいたら、1話目の撮影に入る前に台本を丸々全部覚えます。それがとても苦しいというか、真面目に、自分の中の全てを絞り出して挑みます。長く出演させていただいている『緊急取調室』シリーズも、出演陣がすごいメンバーの方々なんですが、先輩方とたまに芝居の話になることがあって。

そうすると、皆さんも苦しい思いをされているとお聞きするんです。先輩方でもそうなんだから、自分も役者業をしているときは“もっと苦しまなきゃ”という思いがどこかにあって。ふと我に返ると、どこまでMっ気があるんだ……と思うんですけどね(笑)」

まるで修行僧のように、役者業にストイックに向き合っている速水。これまでも多くの役を演じてきているが、例えば今、演じてみたい役はあるのだろうか。

「僕には、自分に合う役、合わない役があるように思うんです。それはいろいろな作品をやって、自分の感覚として理解してきていて。だから、自分の年齢に合ったものというよりも、漫画原作のような作品が合っているのかなと感じています。

役者業に関しては“こういうのがやりたい”と思っても、自分だけの問題ではなくタイミングもあります。だから、タイミングが合えば演じよう、というところで考えています。希望を言えるなら、僕自身は綺麗なものを見ることのが好きなので、そういう綺麗な作品がいいなと思いますね」