『MOCO'Sキッチン』では8年で約1800レシピを考案

俳優業の一方で、2011年から8年続いた『MOCO'Sキッチン』以降は、彼自身の活動のなかで料理の仕事も大きな位置を占めている。料理への道に進んだきっかけを聞いた。

「もともと飽き性なので、ひとつのことだけではなく、こういうのも集めたい、こういうところにも遊び行きたい、こんな景色を見てみたい、こんな仕事をしてみたい、といった好奇心が働いてしまうんです。それで、俳優だけではなく、もっと違う表現をしてみたいと思うようになりました。

ちょうどそのタイミングで、日本テレビの朝の情報番組が変わるってことになって、『ZIP!』のスタートから『MOCO'Sキッチン』をやらせてもらうことになったんです。そこでの出会いにも感謝しています」

そもそもは「持っているレシピをあまり紹介したくなかった」という彼だが、番宣番組で料理をしたところ、審査員をしていた大物シェフに、その腕前を認められたことが大きな自信につながったという。

「イタリアンの重鎮・落合シェフが審査員でした。でも、そこからすぐに料理の仕事がしたい! という気持ちになったわけではなかったんです。そのあと、いろいろな仕事をしていくうちに、俳優の特技としてゲストで招かれて披露するっていう形ではなく、徐々に料理番組を自分発信でやりたいと思うようになって。

もともと僕は不器用なので、ひと皿で自分の気持ちを伝えたいなという思いがあったから。まあ、料理をやっている方たちは、そういう人が多いんですけどね」

▲最初は自分のレシピをあまり紹介したくなかったんですよね

そこからスタートした『MOCO'Sキッチン』では、「8年間で約1800品のレシピを考案した」というからすごい。しかも、よくあるタレントの料理番組とは違って、自身もフードコーディネーターとして参加し、調理中に使う差し替えの準備まで、全ての調理過程に加わった。

「『MOCO'Sキッチン』をやれてよかったと思います。もちろん、それまで頑張ってきた役者としてのイメージは薄れてしまうかもしれないけど、そこは覚悟の上で料理の道を選びましたから。でも、これもやっぱりタイミング、出会いですよね。そろそろ料理番組をやりたいなって思っていたところに、『ZIP!』との出合いがありました」

その反響の大きさは予想以上のものだったという。

「3年は続くかなと思っていましたけど、まさか8年も続くとは。料理をしていると、俳優だけしていた頃より人との距離が縮まるんです。食にはみんな興味があるし、実際に料理をしてる人も多いですからね。

俳優のときのように“見ました!”“面白かったです!”だけじゃなく、“パートナーに作ってあげました”とか“今晩、何を作ったらいいんでしょう?”なんて相談されたりして話が膨らむ(笑)。“うちの田舎には、こんな料理があるんですよ”と教えてもらって、知らない料理を知ることができたり。そこが面白いんですよね」

キッチンカーで食材の生産地に行って料理を振る舞う

『MOCO'Sキッチン』のレシピ本は、2013年にフランスのグルマン世界料理本大賞の日本料理部門でグランプリを受賞し、2015年からは自身のキッチンブランド「MOCOMICHI HAYAMI」もプロデュース。2019年からは、「速水もこみち監修おせち」シリーズなどの商品開発も手掛けるなど、料理の仕事の幅はますます広がっている。

「どれもやってみたいという思いはあったんですが、特に商品開発で次々と新しいものが出るなかでのレシピにも携わりたくて。やっぱり“食”って幅が広がっていくんですよね。それもまたご縁で、食を愛している人たちからお声がかかる。本当にとてもありがたいことだと思っています」

食を通じたコミュニケーションが広がるにつれて、食への好奇心もさらに広がっている。2022年4月からスタートした『食材探求ロードムービー 頂!キッチン』は、速水がキッチンカーで食材の生産地に出向き、生産者に会うことでその背景を探る。そして最後に、彼が腕をふるい生産者の人に、その食材で作った料理を振る舞うという内容になっている。

「訪れる土地ごとに新しい発見があります。知っているようで知らないこともたくさんあって。直接、生産者の人とお話しすると、その人がどんな気持ちで作物を育てているのかも見えてきますし、食に興味のある人同士が出会えるのがうれしいです。あと、これは本当に感謝なんですけど、この番組での料理は僕の好きなように作らせてもらっているんです」

たしかに、番組で披露する彼のレシピは、家庭料理とは一線を画した、プロ級の手業や工程が必要なものも多い。

「一般的な番組は工程を削って削って、作りやすいレシピにするんですけど、この番組では、もっとお化粧して色気を足したいと思っていて。チャーハンや焼きそばのような、作りやすい料理はメインにしたくありません。それだと他にも番組はあるし、僕自身も別のコンテンツでやっていたりしますからね。

キッチンカーで料理をするので、外で作る大変さはあるんですけど、それでも地元の方や生産者の方など素晴らしい出会いがある番組だから、その人のためにみんなが知っているレシピではない、新しいものをお出ししたいなって」

だからこそ、番組に登場する多くの生産者は「こんな食べ方もあったんだ!」という言葉を口にする。

「ビリヤニを紹介したときも、生産者さんが“ビリヤニ?”って驚かれていて。やっぱり、その土地には決まった食べ方がありますからね。でも、だからこそ“違うものも食べたい”って期待もあるだろうから。僕なりにアレンジしてお出ししたものを、最終的には喜んでもらえるとホッとします。食べていただくまではドキドキですけどね(笑)」