日本人の1日平均の歯みがき回数は、2.7回だそう。これを365日で計算してみると、年間で合計1000回近くの歯みがきをしていることになります。口の中の健康への関心度は、20年ほど前から大きく変化してきているようです。しかし、家にいるときは歯磨きできますが、外出中は難しい。英国紅茶研究家の斉藤由美氏によると、紅茶が口内の健康管理にも役立つようです。

※本記事は、斉藤由美:著『紅茶セラピー -世界で愛される自然の万能薬-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

日本人の関心が高まっている口内の健康管理

オーラルケア製品を取り扱うメーカーのデータによると、以前は歯みがきの目的の筆頭は「虫歯予防」でしたが、今は「歯周病予防」がダントツです。オーラルケア用品も、歯みがき粉や歯ブラシ以外に、液体マウスウォッシュ、歯間ブラシやデンタルフロスといった商品も、特別なものではなくなりました。

歯科医にかかっている患者の意識も、ずいぶんと高まっているとのことです。以前は、痛みを感じてから治療のために歯科医を訪れることが多かったのが、近年は予防のために訪れる患者の増加が目立つのだそうです。歯石除去のために定期的に通院する患者が増えていることは、厚生労働省のデータでも明らかになっています。

オーラルケア製品も、以前は家族で同じものを使用していたのが、家族それぞれの年齢や症状に伴う異なったニーズによって、自分に合った製品を各自が選ぶ時代に変化しているようです。

私は、長年勤務した紅茶メーカーを退職したあと、2年ほど流通専門誌の編集記者をしていました。そこで、オーラルケア市場の特集記事を担当した際、大手メーカーや販売店、歯科医師のもとに足を運び、直接取材して回ったことがありました。そのとき聞いた情報で、もっともニーズが高かった症状が「歯周病」でした。

▲日本人の関心が高まっている口内の健康管理 イメージ:shimi / PIXTA 

ドラッグストアの売場などを見ていても、いちばん多く目にするワードは、歯周病ではないでしょうか。じつは、この歯周病に紅茶が有効に働くという報告があるのです。歯周病と紅茶の関係に迫ってみましょう。

歯周病とは、歯垢に含まれている歯周病菌によって引き起こされる、細菌感染症のことです。感染すると、歯ぐきや歯槽骨(しそうこつ)という歯のまわりの組織に炎症が起こります。つまり、口の中に細菌が発生して、歯ぐきが腫れたり、出血したり、最終的には歯が抜けてしまったりという症状のことで、歯を失うもっとも大きな原因の病気の総称が、歯周病なのです。

歯周病は、自覚症状がないまま進行してしまうという怖さがあり、なんと日本人の約80%が歯周病にかかっているとさえ言われています。痛みがないので大丈夫と思い、そのまま放置しておくと、あとで大変なことになってしまうというのが歯周病の怖さ。

でも、その一方で、日々のケアを心がけていると、進行を防ぐことができるという、予防しやすい病気でもあります。

この歯周病予防に、紅茶が活躍するという報告がありました。ここで「紅茶ポリフェノール」が力を発揮するのです。紅茶ポリフェノールには、抗菌作用があるため、虫歯菌や歯周病菌の増殖を抑えてくれます。ある研究では、緑茶よりも紅茶のほうがそのパワーが強いと報告されました。

食事のあと、歯みがきをする環境にない場合などは、紅茶を飲んだり、または紅茶で軽く口をゆすぐことで、歯周病菌を抑えることができます。ただこの場合、紅茶は無糖であることが必須となります。糖分が含まれていると、虫歯菌が増殖しやすくなるため、逆効果になってしまうからです。

そして、レモンティーも避けたほうがよいでしょう。それはなぜかというと、口の中が酸性になってしまうから。口の中が酸性状態になることで、虫歯、歯周病に次ぐ第三の口腔疾患を引き起こす危険があるためです。このことについては、次の項で触れることとしましょう。

健康意識の高い人ほどpH値の傾きによる虫歯リスクが高い

フルーツやお酢、そしてワイン。健康や美容によいというイメージがあり、積極的に摂るようにしている人も多いのではないでしょうか。ポリフェノールの一種レスベラトロールが含まれていることから、赤ワインなどはブームにもなりました。

これらの食品には共通点があるのですが、なんだと思いますか? 答えは「酸」が含まれていること。近年、この酸によって歯のエナメル質を溶かしてしまうという現象が問題となっているようなのです。

これは「酸蝕症(さんしょくしょう)」と呼ばれ、欧米では日本よりも早く研究が進められてきました。日本でも、虫歯、歯周病に次ぐ第三の口腔疾患として注目されており、この症状を持つ人も増えてきているといいます。とりわけ、健康意識の高い人は、酸性度の強い食品を口にする傾向にあります。先ほど述べたワイン、お酢やフルーツのほかに、柑橘系のジュースやドレッシング、炭酸水なども挙げられるでしょう。

お酒やジュースなどは、ほとんどがその危険性をはらんでいますが、長い時間をかけて飲み続けるようなことをしなければ、唾液によって中和されるので、それほど心配はいりません。お酒をゆっくり飲みたい場合は、水を一緒に飲みながら過ごすとよいでしょう。つまり、口の中を長時間、酸性状態にしないということがポイントになります。

酸性度は、pH値によって示されます。pH値は0~14のあいだで表され、値が低いほど酸性度が強くなります。酸蝕症を防ぐには、pH値が5.5よりも低い飲み物に気をつけなくてはなりません。その点、茶類はpH値が高く安心です。特にミルクティーはその値が高いので、お酒を飲んだあとの締めのドリンクとしてもおすすめです。酸性になった口内を中和して正常な状態に戻してくれます。

▲健康意識の高い人ほどpH値の傾きによる虫歯リスクが高い イメージ:pearlinheart / PIXTA

ただし、レモンティーはNG。理由はわかりますよね。pH値をひとつひとつ考えるのは難しいですから、「すっぱいものや酒類」に気をつけるとよいと覚えておきしょう。

さて、歯みがきというとよく聞く言葉といえば、おそらく「フッ素」も挙げられるのではないでしょうか。オーラルケア用品のパッケージでもよく見かけますね。このフッ素が、じつは紅茶にも含まれているのです。

フッ素は、歯を丈夫にする作用があるので、虫歯対策には欠かせない成分。フッ素が歯の表面につくことで、歯を強くしてくれるのだそうです。紅茶をはじめとした茶類には、このフッ素が含まれているため、虫歯予防にも効果的ということがずいぶん前から言われていました。

ただ、ここでも気をつけなくてはならないのが、何も加えていないストレートティーであること。何も加えないありのままの紅茶の味わいを選択するだけで、虫歯、歯周病、酸蝕症という三大口腔疾病から遠ざけてくれるのです。紅茶の力、あらためてすごいと思いました。