花粉量の増加や大気汚染、食生活の変化などさまざまな原因により、花粉症やアレルギー症状に悩む人が増えている。それには私たちの「粘膜」に関係しているらしい。テレビ、雑誌などメディアでも活躍する免疫の専門家・和合治久氏に、粘膜の役割りについて聞きました。
※本記事は、和合治久:著『粘膜力でぜんぶよくなる -れんこんパワーで病気をはじき出す!-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
カサカサ粘膜がアレルギー症状を引き起こす
現代人には、花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどといったアレルギー症状に悩む人が急増していますが、これはカサカサ粘膜の人が増えていることと関係しています。
まず花粉症ですが、そもそも、鼻の粘膜から分泌される鼻水に含まれる粘液が多ければ、鼻の中に花粉が侵入してきても、トラップして外に出すことができます。
でも、カサカサ粘膜で、鼻水中の粘液の量が少ないと、外に出す作用が追いつかず、鼻粘膜から花粉成分が体内に入ってきます。
その結果、体内でこれに対するIgEというアレルギー抗体が作られ、その抗体が白血球の一種の肥満細胞に結合します。再び花粉が入ってくるとIgEと反応して、くしゃみや鼻水や鼻づまりなどのアレルギー症状を引き起こすヒスタミンが放出されて、花粉症の症状が出てしまうのです。
また、アトピー性皮膚炎は子どもにも大人にも増えている病気です。これは、粘膜ではなく皮膚で起こるものですが、粘膜のカサカサも間接的な原因になります。
アトピー性皮膚炎は、皮膚で粘液と同じように異物を撃退する働きのある汗や皮脂の分泌が減り、バリア機能が弱まることが原因です。これによって、ハウスダストやカビ、細菌、ダニなどの異物が皮膚から侵入してしまい、アレルギー抗体ができて、アトピー性皮膚炎になるのです。
皮膚は粘膜とつながっているので、粘膜がカサカサだと、皮膚もカサカサになりやすく、結果的にアトピー性皮膚炎にもなりやすくなると言えます。
このしくみは、食物アレルギーも同じで、消化管の粘膜上皮から粘液が減ると、消化酵素も減少し、食物性の異物がアレルゲンとして侵入しやすくなり、同じようなメカニズムで食物アレルギーになります。現代人に多いアレルギー症状は、カサカサ粘膜が一因なのです。
放っておくと深刻な病気につながるカサカサ粘膜
粘液の分泌量が減り、粘膜力が衰えると、体のあちこちで、さまざまなトラブルが起きます。次でご紹介するのが、体の各場所の粘膜力が低下することで起こりやすい、おもな体の不調です。
ストレスや不規則な生活などで交感神経が優位になると、粘液が減少しますが、これは一か所でなく体のあらゆる粘膜で起こるので、次でご紹介するような症状は、複合的に起こる場合も少なくありません。
- 口の粘液(唾液)の分泌の低下:ドライマウス、虫歯、歯周病、嚥下障害、誤嚥性肺炎、消化不良、風邪、インフルエンザなど
- 鼻~のどの粘液の分泌の低下:風邪、インフルエンザ、花粉症、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、肺炎など
- 目の粘液の分泌の低下:ドライアイ、結膜炎、ものもらい、疲れ目、かすみ目、目の充血、花粉症など
- 食道~胃の粘液の分泌の低下:消化不良、胃炎、胃潰瘍、胃がん、感染性胃腸炎など
- 腸の粘液の分泌の低下:便秘、下痢、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、がん、肌荒れなど
- 生殖器の粘液の分泌の低下:不妊、膣炎、性交痛、性交時出血、掻痒感など
粘液不足は、体のあらゆる部分での不調を引き起こします。
粘膜力の低下は、放っておくと、命に関わる深刻な病気につながることもあるので、油断できません。例えば唾液の分泌が少なくなると、嚥下がうまくできなくなり、誤嚥を起こして、誤嚥性肺炎を招きやすくなります。
また、胃の粘液の分泌が減ってしまうと、胃の中の細菌やウイルスを撃退できなくなり、それらが繁殖してしまいます。なかでもピロリ菌が繁殖すると、胃がんの原因になるので危険です。
大腸の粘液の分泌が減ると、病原体が入り込み、そこで最終的に抗原抗体反応が起きます。このときに、なんらかの理由で異常な自己成分に反応する抗体ができていると、これが自分の大腸粘膜を攻撃して炎症を起こし、潰瘍やびらん(ただれ)を形成します。この免疫異常による病気が潰瘍性大腸炎です。
この病気になると血便や下痢、腹痛などが起こり、ひどくなると貧血や発熱、体重減少などが起こることもあります。治療で改善しても再び悪化して繰り返したり、症状がだらだら続く場合もあり、難病の一種とされています。
粘液の分泌力が低下すると発がん物質の侵入も防げなくなるので、さまざまながんになる可能性も高まります。粘液の減少は、がんなど命に関わる病気のリスクを高めるのです。