似顔絵を描くと過去に話した内容を思い出す
――吉本興業初のイラストレーターということで、お笑い芸人からイラストレーターに転向されましたが、大変なことはなかったですか?
すぐる画伯:今でこそ皆さんに認知していただけるようになりましたが、イラストレーターの活動を始めたばかりの頃は、宙ぶらりんでしたよ。吉本所属とは名ばかりに、バイトをしながら、絵を描き続ける生活が続きました。
吉本興業は、ライブに出ていればギャラが明細として届くんですけど、僕はライブに出ていなかったので、明細も届かず。そのときは吉本への帰属意識が薄れましたし、ツラかったですね。ただ、発信したいものがあったから、自分を信じるしかなかったです。
――「今日からイラストレーターやります!」って宣言したんですか?
すぐる画伯:じつは、プロフィール欄に「吉本興業の唯一のイラストレーター」と勝手に書いていただけなんです(笑)。その後、徐々に認知され、フォロワーが増えていくなかで、社員の方に報告すると「いいと思いますよ!」と言っていただけて、よし認められたぞ!って(笑)。
初めての書籍『1秒できゅんとする!ほのぼのザわーるど』が出版されたときは、僕が勝手に名乗っていた「吉本興業の唯一のイラストレーター」という肩書を、会社側からプロモーションで使っていただけたので、ありがたかったですね。
――芸人さんだと先輩がいて、悩みを聞いてもらえることがあると思いますが、すぐる画伯は独自路線を開拓されてきました。そういった意味で大変なことはないですか?
すぐる画伯:孤独ですね。でも、“結局は自分”と思っているタイプなので、そこに苦悩を感じてないんだと思います。とは言え、仕事のことを話せて、飲みに行ける先輩が少ないのは寂しいですよね。だから、イラストを描いている芸人同士での結束は強いです。そういった先輩の数は多くないけど、共感していただける部分は多いですね。
今回のラフォーレ原宿の「愛と狂気のマーケット」で一緒に出展している、ひろたあきらさんもそうですし、鉄拳さんやパラデル漫画の魂の巾着の本多さんなど、仲良くさせてもらっています。
「やぁねこ」は皆さんの味方です
――ここにも大きいやぁねこちゃんがいて、来場者もお写真を撮られていましたが、やぁねこがみんなを惹きつける魅力とはなんでしょう?
すぐる画伯:僕がしてしまう、おっちょこちょいを含めたあるあるネタを投影したキャラクターなので、絶対にみんなの味方でいてくれるだろうなと思います。人のことを傷つけないし、“私もそれやっちゃうよ”みたいにゆるく優しく受け入れてくれる。皆さんにとって、やぁねこは味方です。すぐる画伯というキャラクターは別でいるんですけど、僕の目線はやぁねこに近いと思います。
――すぐる画伯にとって、一番の転換点となった出来事はありますか。
すぐる画伯:やはり、コロナ禍が大きかったかもしれないですね。Instagramで活動を始め、徐々にフォロワーが増えていきましたが、そのタイミングと同時に来たのがコロナ禍でした。そのとき「吉本の自宅劇場があるけど、すぐるくんは何かやる?」と社員さんから声をかけていただいたので、僕は「似顔絵をやりたいです!」と言ったんです。
「テレワーク似顔絵」という名前をつけて、オンラインで似顔絵を描く活動を始めて、それが大きなきっかけとなっていると思います。コロナ禍は世間的に大変な時期だったので、複雑な思いではありますが……。
――気持ちが沈むコロナ禍で、すぐる画伯の可愛くて心落ち着くイラストが求められていたのかもしれないですね。
すぐる画伯:そう言っていただけるとありがたいです。似顔絵って、1人1枚あればいいし、なんなら1枚もなくてもいいものじゃないですか。でも、テレワーク似顔絵に参加してくれた方は、リピートしてくれることが多かったんです。
似顔絵を描きながら、40分間お話をするんですけど、ただ話を聞いてほしいという方も来るんです。コロナ禍で家にいて誰とも話さない、という方にとって支えになってたならよかったなって。
――マネージャーさんから伺いましたが、お客さまの名前や話した内容をほぼ覚えているそうですね。
すぐる画伯:高校時代に聞いてた曲を今聞いたら、学校からの帰り道の風景を思い出すことがあるじゃないですか。それと同じで、喋りながら絵を描いているので、その線を見たときに、何を話していたか思い出すんですよね。なので、前回お会いした方に「そういえば、あの話ってどうなりました?」と言うと、びっくりされます(笑)。
――すごい!
すぐる画伯:たまたま思考回路のなかで、記憶力のある部分がお喋りと似顔絵にマッチしていたんでしょうね。もともと文字だけでの記憶は得意ではないので……美術だけではなく、日本史の成績も2でしたし、台本は覚えられないタイプです(笑) 。
(取材:吉田 真琴)