レーダー波から兵器体系まで特定する「エリント」
茂田:エリントは、電磁波、特にレーダー波を傍受して情報を得ようとする活動です。今のウェポン・システム、武器は基本的にほとんどがレーダーを使っています。軍艦や戦闘機は敵を探知するのにレーダーを使い、対空機関砲や地対空ミサイルもレーダーを使います。
それらが出すレーダー波を分析すると、どこに何があるかがわかり、兵器体系がよくわかる。これがエリントの分野です。
江崎:「レーダー」といえば、日韓で大きな問題になった、韓国の駆逐艦による「レーダー照射問題」があります。あの事件も、何時何分、どの位置から、どういうレーダーが、どういうふうに照射されたといった、レーダーの実態を正確に把握し、記録しておかなければ、韓国と協議もできないわけです。これがエリントに関連する話ですね。
茂田:おっしゃる通りです。レーダー波の分析から、単にレーダー波が出ているという事実だけでなく、そのレーダー波を出しているレーダー送信機が、どういう送信機かまで特定するわけです。
そうすると、そのレーダーを搭載しているのが、どの種類の戦闘機なのか、どの種類の軍艦なのか、地対空ミサイルならどの種類なのか、といった兵器体系までを推定どころか、ほとんど特定できるのです。
ウクライナ戦争関連でテシェイラが漏洩した機密資料のなかには、前線におけるロシア軍部隊、ワグネル軍事会社の部隊、ウクライナ軍部隊の展開状況を詳細に示した地図があります。この資料は、今述べたレーダー波の分析と、先程お話しした「通信状況分析」、通信電波の発信場所の分析から、作成したものとされています。
江崎:ミサイルその他、さまざまな高度な武器が使用される状況のなかで、日本もそういう能力を獲得して情報を蓄積していかないと、いつ・どこで・誰が・どういう攻撃を仕掛けられるか、という事態に対応できないということですよね。これは日本政府が事態認定、つまりどこの国からどのような攻撃を受けたのか、ということを認定するに際して不可欠な情報ですね。
ということは、ロシア・中国・北朝鮮はもとより、韓国や台湾に対しても情報収集を徹底していくことが重要になってきますね。 敵味方の識別も必要ですので。
茂田:そういうことです。そこにはエリントという膨大な分野があります。
ミサイルの性能分析にも使える「フィシント」
茂田:最後はフィシントです。一番典型的なフィシントは、テレメトリー信号から得られる情報です。テレメトリーとは対象の遠隔監視を意味します。例えば、ミサイルの発射実験を行う場合、ミサイルの状態を地上で把握しなければならないので、決まったデータフォーマットで、頻繁にデータを送信するわけです。
送信データは通常は単なる数字の羅列なのですが、じつはそのデータを正確に解釈できれば、そのミサイルのロケット・エンジンの状況や、燃料消費量などの状況がわかります。そして、それらの情報を基に、核戦力の主体となるミサイルの性能や開発段階などまでが分析できるのです。
江崎:北朝鮮が日本周辺に向けてミサイルを撃ってきたとき、日本政府・防衛省・内閣がアメリカ軍と一緒に懸命に情報取集し、発射されたミサイルがどういうものかを見極めています。そうして分析された情報の一部が、例えば日本の本土にミサイルが飛んで来るかもしれないという避難警報を出す際のベースになるわけですね。
茂田:ミサイル発射探知の前の段階、ミサイルの性能分析のための情報として使えます。 そのミサイルの性能分析を前提として、飛行距離の予測などをするわけです。
アメリカなど、はこのテレメトリー信号を取るため、専用の飛行機や艦船を派遣したり、さらに人工衛星まで遥か上空に打ち上げたりしているのです。
日本は今回の国家安全保障戦略で「サイバー安全保障分野の対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させる」としました。 「同等以上」という意味は、アメリカ以上とは言わなくても「アメリカ並みにするぞ」と宣言したわけです。
〇「恐るべきアメリカのインテリジェンス」[チャンネルくらら]