第二次世界大戦においてアメリカとソ連は「正義の国」であり、日本は侵略を行った「悪い国」だとされてきたが、本当にそうだったのか? 「ヴェノナ文書」「リッツキドニー文書」などの機密文書の情報公開などにより、さまざまな事実が明らかになってくるとともに、私たちが学校教育で教えられた近現代史は「時代遅れ」になっている。

今後、日本が国際社会でしたたかに生き抜くためには、アップデートされた近現代史、インテリジェンス・ヒストリーを学ぶ必要がある。近現代史と情報史に詳しい江崎道朗氏による、いま知っておくべき近現代史の常識。

第二次世界大戦においては、敗戦国となったドイツと日本が徹底的に糾弾されてきた。しかし、20数年前から近現代史をめぐる国際社会の様相はかなり異なってきており、なかでも戦勝国であるソ連も酷かったのではないか、と言われているようだ。

ナチス・ドイツは酷かったがソ連も酷かった!?

国際社会の動向を見るとき、重要なのはグローバル・トレンド、日本語で言えば世界の大勢を意識することが大切です。意外かもしれませんが、近現代史の歴史認識についてもグローバル・トレンドがあるのです。

第二次世界大戦後、敗戦国となったドイツと日本が徹底的に糾弾されました。

アメリカのハリウッド映画などを見ていると、憎らしい敵は常にナチス・ドイツであり、そのドイツと勇敢に戦ったアメリカやイギリス、フランス、そしてソ連を褒めたたえる物語が大半でした。

幸いなことに、ハリウッド映画において日本は、ナチス・ドイツほど“やり玉”に挙げられることはありませんでしたが、それでも日本人はどちらかというと、残虐な軍国主義者として描かれてきました。よって主に日米両国のマスコミなどでは「日本は過去、悪いことをした」と決めつけられてきました。

日本人の多くも、近現代史の話題に話が及ぶと、とにかく謝っておけばいいと考えてきました。

しかし20数年前から、近現代史をめぐる国際社会の様相はかなり違ってきているのです。この世界の大勢を正確に理解しておくことが重要なのですが、意外と報じられていません。

▲アウシュビッツ強制収容所 出典:リュウタ / PIXTA

では、どのように近現代史が見直されているのかと言えば、ナチス・ドイツだけでなく、共産主義を掲げたソ連にも問題はなかったのか、という議論が急浮上しているのです。

もろちん純然たるアカデミズム、学問の世界では、善悪だけで歴史を論じることができないことは理解されています。しかし、国際政治の世界では、誰が敵で、誰が味方か、どこの国が善で、どこの国が悪か、という議論が主流となりがちです。

第二次世界大戦では「アメリカ、イギリス、フランス、ソ連などの連合国」対「ドイツとイタリア、そして日本といった枢軸国」の構図となりました。そして後者の枢軸国側が敗北し、悪者になったわけです。

よって、ヨーロッパでは、ドイツは悪い国であり、戦勝国のソ連は良い国だということにされました。要するに、ナチス・ドイツという「悪」と戦ったソ連や、フランスのレジスタンスで奮闘した共産主義者たちは「英雄」だとみなされてきたのです。

ところが、ナチス・ドイツも悪いが、戦勝国とされたソ連はもっと悪かったのではないのか、という議論が起こっているのです。