日本の要人たちの情報もアメリカに収集されている
茂田:メタデータ分析のなかでも、注目されるのがFASCIA(ファッシア)という位置情報データベースを使った、携帯電話の位置情報を追跡する手法です。NSA(アメリカ国家安全保障庁)は2012年当時、スマートフォンを含む世界中の携帯電話の位置情報を、毎日50億件近くも収集し、そのうち情報価値の高い数億件を保存していたと言われています。
50億件と言っても、同一の携帯電話から毎日複数の位置情報を入手することになるので、携帯電話50億台分の位置情報を収集しているわけではないのですが、億単位の携帯電話に関する情報を収集しているのです。
収集する位置情報は、DNR(Dialed Number Recognition)データと、DNI(Digital Network Intelligence)データの2種類です。
DNRデータとは、電話通信網から収集されるデータです。通話を可能とするためには、携帯電話端末に関する情報を、現在どの通信塔と通信接続可能であるかを含めて、システム上、登録しておく必要があります。
そのシステムはSS7(Signaling System No7、No7共通線通信方式)という、世界の公衆交換電話網で使われている電話接続管理の通信プロトコールによって管理されています。これにより、電源を入れて携帯電話をネットワークに接続する際、あるいは通信圏(塔)を移動する際には、その情報がシステム上に登録されます。
つまり、携帯電話に電源を入れると位置情報のデータがNSAに取られ、FASCIAに蓄積されるということです。
江崎:つまり、日本政府の要人たちが、いつどこで電話を掛けたのか、その情報もアメリカ政府によって収集され、蓄積されているわけですね。
茂田:このデータ収集は、NSAの主要な収集プラットフォームである通信基幹回線などから行われています。例えば、「ストームブリュー(Stormbrew)」という計画では、米国通信会社同士の電話回線接続点(OPC/DPC pairs)27か所からデータを収集しているそうです。
通信回線構成の技術的特徴から、少数の通信会社の協力を得るだけで、他社の契約者の携帯電話情報にもアクセスできるとのことです。
一方、DNIデータは、デジタル通信網から位置情報を取得するものです。スマートフォンでは、最寄りのレストランや公共施設を案内するなど、現在地に対応した各種の情報サービスが提供されており、そのために端末のIPアドレスと位置情報が、グーグルなどのインターネット関連事業者に送信されています。
端末の位置情報は、端末搭載のGPSにより取得されることが多いと考えられますが、GPS情報がなくても、WiFiデータあるいは複数の通信塔からの三角測量により算出されています。IPアドレスと位置情報を自動収集するシステムは、「ハッピーフット」計画と呼ばれています。
2012年当時、こうした位置情報を収集する手法は、10種類以上あったそうです。それらを駆使して、NSAは世界中の携帯電話の位置情報を集めていました。それをすることで、例えば、人の行動を監視できるようになります。わざわざ尾行をしなくても、スパイやテロの容疑者が、いつ・どこで・どのように動いているか分析できるのです。
江崎:アメリカのスパイ映画などで描かれているようなことが、リアルで実際に行われていたということです。
〇「スノーデンが暴露した米NSAの恐るべき情報収集能力」[チャンネルくらら]