人間は「ないものねだり」をする生き物

――編集あるある、ですね(笑)。蛇足だと思っても、ついついやってしまいがちです。本を作る側の目線でいえば、いくつかの質問で、本当に最初の三行ぐらいで答えが出てしまって、そこから先は「余談ですが……」と違う話になるところがあるじゃないですか? あれはなかなかできないですよ。余談の部分を読み飛ばされる危険性があるので。

哲夫 あぁ、そうなんですか。あれはもうね、ふざけたいんですよ。腑に落ちる解決策にプラスして「バカなこと書きやがって!」というものをミックスさせたい。なぜかというとね、もう「価値のないもの」に見せたいんですよ。

――価値のないもの?

哲夫 そうすることで、読んでくださる方が勝手に付加価値を見いだしてくれるんじゃないかな、と(笑)。

――でも、このご時世ですから、笑いの要素も大事だと思います。笑いはストレス解消にもってこいですしね。

哲夫 ストレスというのは、突き詰めていくと「自分」が原因になっていることが多いんですよ。周りの人がやっていることが気になって、イライラしたりするのも「自分」次第ですから。釈迦の言葉に「人のしたこととしなかったことを見るな。自分がしたこととしなかったことだけ見よ」というものがあるんですけど、こんなにも悲しそうで芯食ってる言葉もないな、と思いますね。

――たしかにそうですね。本当に明日のことすらわからない状況ですから、自分と向き合っていくことも大事です。

哲夫 映画『千と千尋の神隠し』で千尋が「ここで働かせてください!」っていう場面があるでしょ? あれってすごい言葉だと思うんですよ。いま、みんなが思っているわけじゃないですか「お願いだから仕事をやらせてください!」って。

――そうですね。自粛、自粛で仕事が激減している人も多いですし、サラリーマンでも慣れないテレワークを余儀なくされている方もいます。

哲夫 いままで「なんで今日も仕事に行かなくちゃいけねーんだよ」とボヤいていた人が、急に「働かせてください!」となる。本当は常にそういう気持ちでいなければいけないんですけど、結局は人間、ないものねだりなんですよね。しかし、あの言葉を子どもに言わせるっていうところがすごいですよね、あの作品は。

――そういうことにも気づかされる今日この頃ですが、意外な話がありまして。これだけ動画配信が広まっているというのに、コロナウイルス騒動以降、本の売れ行きがすごく伸びているんですよ。外に出られない時間を読書に費やしている方が増えているようです。

哲夫 ありがたいことに、僕が昔、出した仏教の本のランキングも急浮上しているんですよね。あとはこの『ザ煩悩』が売れてくれれば。唯一、僕がこの本にこめている煩悩が「重版してほしい!」ですから(笑)。そのためにはみなさん回し読みをしないで買ってくだされば……あっ、結局、この言葉は僕の煩悩でしたね、アハハハ! 編集者の煩悩だと思っていましたけど、もう僕が考えたのと同じですわ(笑)。

プロフィール
 
哲夫(てつお)
1974年12月25日、奈良県出身。西田幸治と「笑い飯」を結成。M-1グランプリの決勝戦には第2回から第10回まで、最多の9回進出。2010年の第10回大会で悲願の優勝を果たす。ピンでは、般若心経をこよなく愛し、毎朝写経をするというほどの仏教通として、『えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経』(ヨシモトブックス)、『ブッダも笑う仏教のはなし』(サンマーク出版)など多くの書籍を刊行。“お笑い界のブッダ”の異名を取る。