早くお客さんの前で漫才をやりたい!

哲夫 もっとわかりやすい例をあげると、ものすごくいい高校に受かりました、と。そりゃ、もう大喜びするわけじゃないですか? ところが、その高校はめっちゃ宿題が多いんですよ。そのことを入学してから知ると「うわぁ~、毎日、大変やん。なんでこんな高校に入ったんやろ?」ってなるけど、事前に知っておけば、もう合格した時点で「これから宿題が多くて大変やな。けど、これだけの名前がある高校に入れるんやし、それを誇りに思おう」と冷静に喜べるでしょ?

――たしかに非常にわかりやすい例ですね。

哲夫 みんな「飛びこんだら大変なことになる」とわかっているから、赤信号のときは渡らないわけで。そういうことですよ。病気も同じで感染したら大変だし、自分が誰かにうつしたらもっと大変だ、と理解できれば、予防も当たり前のようにできるはずなんですよ。

――お笑いの世界にも大きな影響が出ていて、吉本さんでも3月2日からすべての劇場を閉館しています。舞台に立てない、というのは漫才師としてストレスですよね?

哲夫 まぁ、他の仕事もあるんでね。テレビ番組の収録とか。それすらもなかったら、たしかに暇やし、いろんなことを考えていたんでしょうけど。あとね、お金がまったくもらえなかったら不安も大きくなったかもしれないですけど、今回はすでに予定が入っていた劇場の出番に関しては、中止になってもギャラが半分、出るんですよ。そういう吉本の寛大な措置のおかげで、必要以上にストレスを感じることはないですね。どうしたんですか、吉本さん、と。いままでやったら、絶対にもらえなかったと思うんですけど、昨年、いろいろあったおかげなんかなぁ~(笑)。

――何があったんでしょうか(笑)。そして、あくまでも無観客ですが、劇場でのネタが無料で配信されています(現在は休止中)。いろんなアーティストが無観客公演をやってはいますけど、お笑いの場合、お客さんの笑いがあってこそ成立する部分もあるわけで……。

哲夫 たしかにそうなんですけど、逆の効果もあるんですよ。それは「スベる」という現象が起きない、ということ。お客さんがいてはる、そこでなにかをやる、でも誰も笑ってくれはらない。これを「スベる」というんですが、お客さんがいてはらないから、もうスベりようがないんですわ(苦笑)。それがわかったので、もう、みんなムチャクチャやってますよ、アハハハ! ひょっとしたら配信を見ている人たちが画面の向こうでシーンとなっているかもしれないけど、僕たちには直接の被害はないから、もう対岸の火事みたいな感じですよね(笑)。

――なんか芸が荒れちゃいそうで怖いですが(苦笑)。

哲夫 でもね、それを楽しめたのは最初の2、3回だけですね。そのあとはもう「ああ、早よ、お客さんの前でやりたいわ!」になってきた。漫才というものに関しては、無観客状態はもういいです。

――それも無観客でやったからこそわかった「真理」ですよね。

哲夫 お客さんが来てくれて、たくさんの笑い声を与えてくれたことって、めちゃくちゃ、ありがたいことだったんやな、と改めて感じましたね。もちろん、いままでも感じてきたことですけど、けっして安くはないチケット代を払って、お客さんが足を運んでくれることは当たり前のことじゃないんだ、と。ありがたいことだったんやな、と。いまの状況を「いい」と表現したら怒られてしまうかもしれないですけど、「いい試練」というか、いろんなことを考える機会ではあったかな、と。『吾唯足知(われただたるをしる)』の境地、ですかね。

早くお客さんの前で漫才をやりたい!