名門ヤンキースの「キャプテン」という役割

筆者は以前、『「なんだ、ただの聖人か」“真のMLBホームラン王”アーロン・ジャッジはナイスガイ』という記事を書きましたが、アメリカ野球界の共通認識として、ジャッジ選手は“A great baseball player, but an even better person” (「すごい野球選手だが、それ以上に素晴らしい人間」)と評されています。

現役最強のパワーヒッターと認知され、今シーズンも人間離れした成績を残しているジャッジ選手が野球能力以上に人格が評価されることたるや、いかにスゴいことでしょうか。

その人間性は球団にも評価され、2022年12月にヤンキースと9年3億6,000万ドルの超大型契約を締結した際には、併せて第16代目キャプテンに任命されました。

レジェンド遊撃手のデレック・ジーター選手以来、じつに9年ぶりの就任となり、現MLBではかなり珍しいキャプテンシーの名誉を受けることとなりました(ジャッジ選手以外では唯一、カンザスシティ・ロイヤルズのサルバドル・ペレス選手が、2023年3月にキャプテンに任命されています)

就任より1年半が経ちますが、その肩書きに見合う以上のリーダーシップを日々、発揮しています。その具体例を探すには、大きく時を遡る必要はありません。

6月10日の対ドジャース戦で、ヤンキースのトレント・グリシャム選手が逆転3ランホームランを放ち、すでに2敗を喫し背水の陣状態のニューヨークをひと振りで救いました。

打席に入った時点で打率が1割を切っていたグリシャム選手は、思いがけないヒーローとなったわけですが、じつはその打席中、自チームの選手にも容赦がないと定評の現地ファンから”We want Soto”(「ソトを出せ」)のコールが鳴り響きました。

前述のとおり、今季、ジャッジ選手とともにヤンキースの二大巨頭を務めているフアン・ソト選手(打率.318/OPS1.024/wRC+190)が欠場していたため、控えのグリシャム選手が代役として起用されたわけですが、一打逆転の場面でファンは代打にソト選手を求め始めました。

結果的にグリシャム選手が逆境を跳ね返し、その次の打席ではファンが一転して”We want Grisham”(「グリシャムを出せ」)コールを繰り出しましたが、決して気持ちの良い場面ではありませんでした。

前置きが長くなりましたが、試合後の取材、ジャッジ選手はソト・コールに対し、“I wasn’t too happy with it”(「ちょっとイヤだった」)と牽制を入れ、ソト選手を失った穴の大きさを認識しつつ、グリシャム選手の素晴らしさ、チームにとっての価値の大きさを伝えました。

26人ロスターの「26人目」の控え選手でも、チームの一員としてしっかり受け入れ、チーム一丸をずっと唱えてきたジャッジ選手らしい言動でした。

ジャッジ選手の活躍により期待されるドジャースとの再戦

数週間前も記者に「ジャッジ、ソト、(ジャンカルロ)スタントンのBIG3として躍動している点についてどう思うか」と問われた際、「うちはBIG9、いやBIG26だ」と断言しており、いつでも姿勢の一貫性が崩れません。そして、これらの言動の好影響が、ヤンキースの好調・躍動に拍車をかけていることは間違いないでしょう。

これらのエピソード以外にも、ヤンキース相手に7回無失点の快投を遂げた山本由伸投手の快投について「山本は素晴らしく見えた。大型契約を得たのには理由があるし、すごい投手だ。エリート級の持ち球を持っているだけでなく、制球も良かった。それらが今日の試合で気づいたこと」と絶賛。

また最終戦の犠牲フライで、ジャッジ選手からのレーザービームを見事にかい潜った大谷翔平選手の激走について「彼はすごく速かった。打球が上がった瞬間に走る(タッチアップする)と確信していた。95~96マイルで投げられたらよかったんだけどね。彼はスピードスターで素晴らしいアスリートだ」と振り返るなど、他チームの選手も手放しで絶賛する「ナイスガイ」エピソードは幾多もあります。

とにかく、野球選手としてもキャプテンとしても規格外のジャッジ選手。プレーとリーダーシップでヤンキースをワールドシリーズまで導き、ライバル・ドジャースとの再戦を実現させてほしいところです。

※fWAR、wRC+はFangraphs社、rWARはBaseball Reference社より引用。成績は全て現地6/11/2024試合終了時点。