現地時間7月16日にMLBのオールスター戦が開催され、アメリカンリーグ(ア・リーグ)とナショナルリーグ(ナ・リーグ)の精鋭たちが熱い戦いを繰り広げました。試合は2回にナ・リーグが大谷翔平選手(ロサンゼルス・ドジャース)の特大3ランホームランにより先制。

しかし、ア・リーグがフアン・ソト選手(ニューヨーク・ヤンキース)とデビッド・フライ選手(クリーブランド・ガーディアンズ)の適時打で同点に追いつくと、ジャレン・デゥラン選手(ボストン・レッドソックス)の勝ち越し2ランホームラン。ア・リーグが5-3で勝利を納めると、MVPはオールスター初選出のドゥラン選手が持ち帰りました。

さて、オールスター戦をもってMLBシーズンの前半戦が終了しました。例年以上に、とてつもない成績を残している選手が多数いるなかで、4人の選手が特に目立っています。彼らの活躍を振り返りながら、両リーグそれぞれの“中間MVP”を(筆者が勝手ながら)選定したいと思います。

※以下の数字は、すべて前半戦終了時点のものです。

ア・リーグで驚異的なWARを記録した2人の野手

ア・リーグからは、昨季のア・リーグ新人王のガナー・ヘンダーソン選手(ボルティモア・オリオールズ)を挙げましょう。23歳の若さで打率.286、ホームラン28本、OPS .957、そしてショートでのエリート級の守備も魅せており、若手中心のオリオールズにおいて最大の戦力となっています。

結果、WAR (Wins Above Replacement / 選手の打撃、投球、走塁、守備をすべて加味した総合貢献度を「勝数」で表す指標)では6.3(Baseball Reference社計測、以後rWAR)および6.1(Fangraphs社計測、以後fWAR)と、両リーグ全体でも2位であり、シーズン10勝近くを積み上げる驚異的なペースを記録。

10勝を超えた現役選手は、ムーキー・ベッツ選手(ドジャース / 当時レッドソックス所属)、アーロン・ジャッジ選手(ヤンキース)、マイク・トラウト選手(ロサンゼルス・エンゼルス)のみという狭き門であることを考えると、いかに突出をしている数値なのか、おわかりいただけるでしょう。

そんなヘンダーソン選手でさえWARが2位となると、1位は誰か。それが今回ア・リーグの中間MVPに選定をした、ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手です。

前半戦のみで、すでにホームランを34本も放っており、OPS 1.112、rWAR 6.4、fWAR6.3と、いずれも両リーグで堂々と1位を記録。

打点もリーグ1位の85打点、打率はア・リーグ4位の.306と、自身初の三冠王も視野に入りつつあります〔打率首位をひた走るガーディアンズ所属のスティーブン・クワン選手の.352とはまだ離れているものの、クワン選手は打席数が少ないので本来の数字に収束する可能性があります〕。また、センターを守れる守備力と強肩も見逃せません。

そして、なにより驚異的なのが、今季のジャッジ選手のWARが、ア・リーグのホームラン記録を62本で塗り替えて、MVPを受賞した2022年よりハイペースを記録していること。22年に大谷翔平選手と繰り広げた歴史的な争いの再来が、今度はヘンダーソン選手とのあいだで見られるのでしょうか。後半戦に向けて期待が膨らみますね。

大谷翔平に負けないデラクルーズの俊足にも注目!

一方の大谷選手ですが、今季は投手としては全休。「打者のみに専念するDHで、MVP受賞はさすがに難しいだろう」との前評判でしたが、今年も常識を打ち破る成績を残し続けているため、ナ・リーグの中間MVPに選定しました。

ホームラン29本、OPS 1.035、rWAR 5.4、fWAR 5.2はすべてナ・リーグ1位。

DHでありながら、他選手に大差をつけてトップに君臨中です。野手として守備貢献がないため、WARが計上されにくいDHにもかかわらず、これだけの数字を残す凄まじさは、むしろもっと評価されるべきかもしれません。盗塁数(と成功率)も含めて、まさに異次元の数字です。

余談ですが、“史上最強のDH”と称されるエドガー・マルティネス選手(シアトル・マリナーズ)でさえ、MVP投票では3位止まり(1995年はOPS 1.107、29HR)。

のちにマルティネス選手と同じく殿堂入りを果たす実績を残し、2006年シーズンに自己最多の54 HRを放ったデビッド・オルティズ選手(レッドソックス)でさえも2位止まりでしたが、大谷選手はDHとして史上初めてMVPを受賞できそうなペースで試合を消化しています。

ちなみに、マルティネス選手のシーズン最高WARは、95年に計上した WAR7.0であり、ケガがなければその数字は軽くクリアすることでしょう。二刀流が封印されているなかでも不可能を可能にする大谷選手からは目が離せません。

最後に、そんな歴史的快挙が迫る大谷選手に対抗しうるダークホースも紹介しておきましょう。それが超俊足の新怪物、エリー・デラクルーズ選手(シンシナティ・レッズ)です。

ヘンダーソン選手と同じ22歳の若手で、打率.256、OPS .829と打撃成績は平均以上ではあるものの、先述の3選手には見劣りします。ただ、注目すべきは規格外のスピードを駆使したその走塁。前半戦96試合で量産した盗塁数はなんと46!

これは、昨季ナ・リーグMVPを受賞したロナルド・アクーニャJr.選手(アトランタ・ブレーブス)が、前半戦に記録した41盗塁をも上回っており、アクーニャ選手が通年で記録した73盗塁を上回るペースです。

1990年代に入り、80盗塁を超えた選手はいないので〔最後に記録したのは、1988年のリッキー・ヘンダーソン選手の93盗塁〕、デラクルーズ選手にも新たな歴史の創生に期待したいです。なお、走塁と守備を含めた総合の数値はrWAR 3.4、fWAR 4.4と勢いがあり、まさに金の卵が大ブレイクしている瞬間を、私たちは目の当たりにできているのです。

(筆者が勝手に決めた)前半戦MVPの大谷選手とジャッジ選手が、このまま先頭を走り切るのか。あるいは後続のヘンダーソン選手、デラクルーズ選手が追い抜くのか。それとも、それ以外の選手が予想以上の勢いで追い上げてくるのか。確実に言えることは、今年もハイレベルの戦いでファンを楽しませてくれる、ということでしょう。