形成外科・美容医療を専門とする医師として10年以上、臨床と研究に従事してきた西嶌暁生(にしじまあきお)。2019年からは、傷をきれいに治す専門医として恵比寿形成外科・美容クリニックにて副院長として、2023年から恵比寿こもれびクリニックに院長として勤務する。

ニュースクランチ編集部が、「シンプルで効果的」なメンズ美容のセルフケア術を聞いた。

▲西嶌暁生【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-INTERVIEW】

怪我を綺麗に治すことを目的にした形成外科

西嶌氏は2013年に筑波大学の形成外科に入局。数ある専門分野から“形成外科”へ進んだきっかけを聞いた。

「医師として2年の研修を経て、筑波大学の形成外科に所属しました。内科や外科と比べると、形成外科はあまり聞き慣れないかなと思います。実際、形成外科と美容整形は何が違うんですか? と聞かれますが、やはり一般的にはわかりづらいですよね。

形成外科では、見えるところ全部の治療を対象としています。例えば、交通事故で損傷した部分の治療や、他の科の手術で失われた組織を作ったり、傷跡が極力目立たないように見た目も意識した治療など。髪の毛も対象ですし、我々の治療によって、患者さんが日々、気持ちよく過ごせるよう心がけています」

そもそも、なぜ形成外科に進もうと思ったのか。その背景には医師の家系が大きく関わっていた。

「根本的なマインドとしては、家族が医師だったことが大きいと思います。父は脳神経外科、兄たちは内科や脳神経外科。祖父は産婦人科でした。『弱い人の味方になりなさい』という言葉を信じてきましたが、形成外科に進んだのは“手を動かすのが好きだった”という、シンプルな理由です。

また、ほかの外科系の科は治療をする際に、“切り取る”“摘出する”などが多いですが、形成外科は“修復する”“再建する”といった内容が多く、患者さんの笑顔に寄り添えることの多い分野だからです」

医局に属していたことで臨床も行いながら、さまざまなクリニックで勤務。その後、筑波大学に戻り病院講師という役に携わるが、改めてクリニック勤務へすることにした。

「大学病院では治療範囲が限られていて、病名がついているものに対して保険診療のなかでの治療を行います。保険診療という決められた枠の中で最大のパフォーマンスをするのが大学病院ですし、研究機関のあるべき姿だと思っています。

ただ、実際に患者さんと向き合ったときに葛藤も感じていました。“こっちの治療のほうが患者さんのためになる”と思っても、保険診療ではできない治療になるので提案できない。また、形成外科は“綺麗に治す”ことを目的としていますが、それを突き詰めると美容医療も必要になってくるのです。そんな思いもあり、より選択肢の多い治療ができるクリニックで働くことを決めました」

そしてクリニックへ進むことで、内科的なアプローチも重要だと気づき、そこから男性の肌や体質を活かした治療やセルフケアを提唱するようになっていく。

「これまでは、皮膚のトラブルをいかに綺麗に治すかを目的としていました。そのなかには動脈硬化で足に血液が流れず、足を切断しないといけないこともありました。そこで感じたのは、ただ見えるところを治すのだけではなく、生活習慣病にならないような食事の摂り方を伝えるなど、内科的なインナーケアの大切さ。そこから視点が広がり、アンチエイジングも力を入れるようになったんです」

▲外科といえど、内科的なインナーケアもすごく大切です

女性と同じ過ちを繰り返さないでほしい

最近では、美容に気を遣う男性も増えてきたと語る西嶌氏。受診する際に、どこの科に診てもらうか悩む人も多いだろう。そんなとき、美容でも怪我でも、形成外科での受診を選択肢として考えてほしいと言う。

「私のクリニックでは、指を切ったなどの外傷で来られる若い方もいますが、傷跡やシミ・シワ・たるみを取る方が多くいらっしゃいます。男女比は女性6.5に対して男性3.5くらいでしょうか。以前に比べて男性は増えていて、年代としては30代後半の方が多くいらっしゃいます。

また、傷跡を綺麗に治したい方は救急病院ではなく、形成外科も選択肢として考えていただきたいです。科によっては縫合に慣れていないこともありますが、私たち形成外科は縫合にも慣れているので、短い時間で最大のパフォーマンスができる。もし縫わないといけない怪我をされたら、形成外科で検索したり、看板を探してみてください」

西嶌氏は、夕刊紙でメンズ美容に特化した連載をしていたこともある。どのような経緯でメンズ美容に関心を持ち、発信したいと思うようになったのだろうか。

「診察室に患者さんが入ってくるときはすでに“悩み”が深い状態なので、どうしても後手になってしまいます。そののため、患者さんにとっては時間もお金も負担になってしまう。それなら、病院にいらっしゃる前から、もっと介入したいなと思うようになったことがきっかけでした。

また、結果的に私たちが介入するにせよ、放置せずにもっと早くクリニックに来てほしいという気持ちもありました。微々たる思いからのスタートでしたが、セルフケアにフォーカスを当てた情報発信をしようと、書籍『だから夫は35歳で嫌われる~メンズスキンケアのススメ~』(光文社)を出版しました」

セルフケアにフォーカスを当てているのは、女性と同じ過ちを繰り返してほしくないという西嶌先生の強い思いもある。

「日本人の女性は敏感肌の方がすごく多いんです。その理由はいろいろあると思いますが、私は小さな頃からケミカルなものを使ったりして、不必要なものに曝露されていることが原因のひとつなんじゃないかと感じています。

今、メンズ美容が注目されているからこそ、女性と同じ過ちを繰り返してほしくないんです。男性の“カッコいい”は、女性と比べて幅が広いと感じるので、みんなが同じことをする必要はないと思っています。例えば、薄毛の方でもカッコいい方はたくさんいますよね!」

そして、メンズ美容にとって大切なことは無理に足さないことだと語る。

「私を含めて飽きっぽい男性が多いので、面倒なことは確実に続かないと思います。なので、今ある習慣を少し変えるか、足すとしても1個や2個だけ。ダイエットや薄毛などのセルフケアで、無理と感じるものは医療を介入させるなどのメリハリが重要です」