ヒドラの姿に見る「腸」の重要性

ところで、みなさんはヒドラという生物をご存じでしょうか。

ヒドラは筒状のカラダで、先端の穴が口、そして口のまわりに数本の触手が生えている1センチほどの生物です。沼や田んぼなどに棲み、水草に付着してミジンコなどを食べています。 ヒドラは脳をもたず、筒状の胴体には腸しかありません。言うなれば腸だけの生物です。

単純きわまりない構造ですが、ヒドラの腸には口から取り込んだものが何であるかを検知するセンサーがあり、その結果を腸全体の細胞に知らせる情報伝達物質(ホルモン)を分泌します。すると、腸全体が反応して的確な消化・吸収が行われるのです。

この生物が、あらゆる動物の最も根源的な姿だとされています。

ここからすべての生物がさまざまな臓器、組織を派生させ進化していきました。脳という神経組織の塊が備わった生物が誕生するのは、そうした進化のずっとあとのこと。

進化の果てにいるヒトも、腸の基本的なシステムはヒドラと同じものを受け継いでいるのです。 そのため小腸は、実際に入ってきたものが何であるのかを、瞬時に判断する能力を備えていると考えられています。 つまり「はじめに腸ありき」なのです。

腸は「第2の脳」どころか、むしろ「第1の脳」にあたります。現在の脳のほうが、腸 に付随してあとから発達した臓器であったというわけです。

約7メートルもある腸のうち4/5が小腸

みなさんもよくご存じの通り、腸は大きく小腸と大腸に分けられます。そして、小腸は さらに十二指腸・空腸・回腸、大腸は盲腸・結腸〔上行(じょうこう)・横行(おうこう)・ 下行(かこう)・S状〕・直腸に分けられます。

腸の全長は約7メートル。そのうち5.5メートルが小腸、1.5メートルが大腸です。小腸のほうが圧倒的に長い理由は、小腸が消化吸収という働きの中心的な働きをしているからです。私たちが普段食べる物は口の中で咀嚼(そしゃく)されて細かく砕かれ、消化酵素を含む睡液と混ぜ合わされて胃に送られます。

約7メートルもある腸のうち4/5が小腸 イメージ:PIXTA

唾液にはさまざまな酵素が含まれていて、殺菌する力もあります。胃に入った食べ物は胃酸や消化酵素で殺菌・消化され、ドロドロの粥状に変化します。

そして、粥状になった食べ物が小腸に入ってくると、小腸では食べ物を吸収できるようにさらに消化します。

その際、小腸は自ら膵臓や肝臓にホルモンを介して指令を出し、胆汁や膵液の分泌を促します。

これらの消化液と食べ物を混ぜ合わせ、さらに消化を進めると、食べ物に含まれていたたんぱく質はアミノ酸に、糖類はブドウ糖などの単糖類に、脂質は脂肪酸に分解され、栄養としてカラダに吸収されていき ます。この一連の働きに脳は関係していません。

腸はあくまでも独自の判断でこのように働いているのです。