“PR”の力が私の人生も変えてくれた
マットレスで有名な株式会社エアウィーヴ。笹木が入ったころはベンチャー企業そのもので、まったく話題になっていなかったという。当時の社長に、彼女を入れた理由を聞くと「ガッツがあったから」と言われたようだ。
給料が半分になるという現実にも臆さず、あらたな人生を歩み始めた笹木。ただ、ベンチャー企業の営業である身分そのものに、思わぬ足踏みをしてしまう。
「入社して早々に、お客さまのもとへ向かうのが怖くなってしまったんです。前職のアイシンでは、名刺を出すだけで周囲が寄ってくるようなイメージでした。でも、エアウィーヴの名刺を掲げた私を相手にする人はほとんどおらず……そのギャップに足がすくんでしまったんです。
ただ、当時の社長の営業同行に行ったとき、自分が恥ずかしくなりました。社長が情熱をもって話した結果、徐々に耳を傾けてくれる様子を何度も目の当たりにしたからです。そんな社長の姿を見て、私もできることから始める決意をしました」
その後、笹木は年商1億円だったエアウィーヴを、5年で115億の売上を誇るまでの企業の成長に向けて貢献した。
「PRの力を使い、少しずつ製品の認知度をアップさせていきました。地元のラジオやフリーペーパーなどで特集を組んでもらったとき、問い合わせが思いのほか増えていく様子をみて、メディアの力に気づいたんです。それからは、各メディアに対しエアウィーヴのストーリーを伝えて、ファンになってもらうことに注力しました。
PRに協力してくれるところが増えると同時に、売上もどんどんアップしていきます。さらに、オリンピック選手が商品を使ってくれたことが拍車をかけ、エアウィーヴは一躍有名企業になりました」
大活躍のなか、笹木は1年の育児休暇を取得する。そして、再びエアウィーヴに戻ってきたタイミングで、会社から離れる決意をした。
「このタイミングで、また“いつ死ぬかわからない!”が頭をよぎったんです。売上も社員も増加した会社に、自分が居続ける意味はあるのか? と感じ始めている自分がいました。そして、当時は小さい企業だった『愛知ドビー』 へ転職。現在では有名なホーロー鍋の「バーミキュラ」を、PRの力を使って12か月待ちになるくらいの成果を出すことに尽力しました」
しかし笹木は、愛知ドビーさえもみずから退く決断をする。彼女のなかで、ある変化が起きていたからだった。
「これまで自分のことだけを考えていた私に、“家族”の存在が増えたんです。当時2歳だった息子と一緒にいる時間を作るには、今の働き方だと厳しいことは薄々感じてました。とはいえ、子育てを優先しながら働けるような会社で、私のやりたいことは見つかるだろうか。そう思ったときに、消去法として導き出したのが“起業”という道でした」
“クライアントを愛して信じる”というマインド
ベンチャー企業で大きな成果を挙げ続けたとはいえ、いきなり起業をすることに不安がなかったのかを尋ねてみた。
「もちろん、怖かったですよ。でも、実際にやってみたら本当に楽しいことばかりだったんです。なによりも、“笹木さんありがとう”と、会社ではなく私に向かってメッセージを向けてくれることに喜びを感じていました。ついに、私が本当にやりたかったことに出会えた気がしました」
当初は、PRではなくコンサルティングをメインに活動していた笹木。主にSNSやブログでサポートを呼びかけ、一人ひとりと丁寧に向き合った。
それから「エアウィーヴ」などで培ったPRの力を活用し、顧客の声をどんどん広げていった。それらの期待に、さらなる品質で応え続けるなかで、現在の「株式会社LITA」が誕生する。代表取締役社長を務める笹木に、LITAの魅力を聞いた。
「“どの会社よりも結果を出す”ことですね。一般的なPR会社は、半年に2回ほどしかメディア露出をしないケースがあるなか、私たちは半年で平均15回程度のメディア露出、多い企業だと半年で40回程度のメディア露出という結果を出しています。圧倒的な数で露出を増やし、売上アップという最高の結果を出すことに注力をしているのです。
そのほか、私は社員に“クライアントを愛して信じる”マインドを徹底的に教え込んでいます。誰よりもクライアントのPRに情熱をもたなければ、結果など出ないと確信しているからです」
業界では、1人で10社ほど顧客を担当するケースが多いなか、LITAは1人につき3社程度だという。社員がより深くクライアントを愛せるために、数を絞り集中して業務にあたってもらうのが目的だ。
現在LITAは、これまでやってこなかった新卒採用へ踏み出している。しかし、1人や2人のスタートではない。2025年度は、14人が入社する予定だ。「本当は20人がよかったが、幹部から止められた」と笑う彼女は、続けて「やると決めたらやる。いつ死ぬかわからないから」と魔法の言葉を繰り返した。
そんな前進し続けるLITAを、今後どのような会社にしていきたいかを聞いた。
「やるからには、日本一のPR会社を目指します。ただ、私が考えている日本一は、売上を上げることだけではありません。“私たちがPRをした会社をきっかけにして、社会が元気になること”です。顧客が描く夢を一緒に見ていくことで、売上アップだけでなく、社会課題解決にも貢献していければいいなと思っています。
そして、未経験からでもPRの仕事ができる人を、全国で1万人増やすのがもう一つの目標です。とくに、女性活躍を支援していきたい。現在、私たちは、PRのノウハウを提供するスクールの「PR塾」 を展開しています。PRは在宅でも可能な仕事なので、子育てや介護でキャリアが一回ストップした人が、家族を大切にしながらも頑張れる仕事が増えれば、日本中が元気になると思うんですよね」
最後に、人生を行動で変えてきた笹木に、はじめの一歩を踏み出すためのヒントを聞いた。すると、「自分がこうなりたい」と思う未来の姿をイメージできているのであれば、あとは行動をしてみるしかないとの答えが返ってきた。
「“うまくできるかな?”と悩んでいるとき、人間はどうしてもネガティブな方向でしか物事を考えられなくなってしまいます。悩む時間があるなら、まずは“今日は何する?”という、目の前の目標だけ決めて、それだけやる。1日に3社に営業をしてみるなど、小さなことでもなんでもいいんです。そして、結果など気にせず、行動した自分を褒めてあげてください。
結果は出るまでに時間がかかるので、いちいち気にしていては疲れてしまいます。それよりも、その日の行動にだけ注目し、できていたら自分をしっかり褒める。そんなことを繰り返していくうちに、気づけば目標を成し遂げられるようになるはずです。私はこれからも、“明日、死ぬかもしれない”思いをもって、一歩を踏み出し続けていきます」
(取材:川上 良樹)