〇江戸の男の歓楽街 第7回-蒟蒻島(前編)-
小銭をためて、いざ蒟蒻島へ
岡場所ができて間もないころの蒟蒻島(こんにゃくじま)の様子が、戯作『寸南破良意(すなはらい)』[南鐐堂一片:著 安永四年]に描かれている。わかりやすく、要約しよう。
商家の奉公人の「久」は小銭をためて、ようやく二朱銀一枚[※概算で現代の1万円程度]ができた。
今夜は外出に都合がいいと、髪結床に行って髪を結い、湯屋にも行って準備をした。煙管と煙草入れなど、おしゃれにも気を遣う。
夕食をすませると、もっともらしい口実で外出した。行先は、蒟蒻島である。
久は引手茶屋に入り、顔見知りの女将(おかみ)に案内を頼む。
女 「ふう、久さんか。お珍しいの。煙草をおあがんなんし」
久 「どうぞ、おまえ、連れて行ってくんねえ」
相手を誰にするか相談したあと、女将は久を八ツ目屋という女郎屋に案内した。
女 「おまえ、四ツ(午後十時頃)には、帰るだろう。床(とこ)を早くさしょうのう」
久 「あい」
女将が女郎屋の若い者に掛け合ったところ、予定していた遊女はあいにく客がついているという。
女 「はてのう、どの子にしよう。久さん、大年増は」
久 「いいのさ」
こうして、久の相手はお深という遊女に決まった。
やがて、お深が現われる。酒が運ばれてきて、女将があいだにはいって盃をまわした。
盃事がすむと、女将は引手茶屋に引き上げるが、その前に久を片隅に呼び、小声で言った。