客引きをするけころ

山下の、けころを置いた女郎屋は二階建てで、間口は二間(約3.6メートル)だった。入口は格子戸。

戸を開け放った入口の半畳の畳にけころが座り、

「もし、寄りなせえし」

などと、通りを行く男に声をかけた。

階段をのぼると、二階には、襖で仕切られた三畳から四畳くらいの部屋が並んでいた。

図2『盲文画話』、国会図書館蔵

図2で、けころの風俗や、女郎屋の入口の様子がわかる。

『続飛鳥川』や『塵塚談』は、けころは美人ぞろいと記していたが、たしかに図を見ても、なかなかの美人である。

なお、図2の画中に「けころばし」と書かれているが、これは「けころ」のこと。

『巷街贅説』(塵哉翁著、文政12年)に――

けころは蹴ころばすの略にして、蹴倒に同じ

とあり、「けころばし」を略して「けころ」というようになったらしい。

要するに、男をとりこにするという意味であろう。

戯作『山下珍作』(天明2年)で、けころ遊びの実態がわかる。

商家の若旦那が二階の部屋にあがると、けころが茶を持ってきた。

「よう、おいでなせえしたね」

女は十八歳で、青茶紬の小袖に、帯をだらりと締めていた。

若旦那は煙草を吸い、茶を飲み、しばらく世間話をする。

ころあいを見て、けころは片膝を立て、煙草盆や茶を片隅に押しやった。

枕をふたつ取り出してきて並べ、

「ちっと、お休みなんし」

と、けころが言う。

お互い、帯を解いた。

情交が終わったあと、けころが階下の便所へ行く。