商家の奉公人のいじましさ
女 「つとめを、おさげなんし」
久 「あい」
久は、なけなしの二朱銀を取り出し、女将に渡した。
女 「さあ、お休みなんし。帰りに、お寄りなんし」
深 「おばさん、帰るか」
女将が姿を消すと、お深が久を寝床に連れて行く。
深 「おまえの内は、どこだ。遠くか」
久 「なあに、近所さ」
深 「むむ、これから、どうぞ、わっちがところへ、来てくんなよ」
そう言いながら、ふたりは床入りする。
久は、いわゆる野暮客だが、大年増のお深にはかえって初心で、可愛い男に感じられたのであろう。最大限のサービスをした。
蒟蒻島では、遊興費は案内をした引手茶屋に払っていたことがわかる。引手茶屋は手数料などを引いたあと、女郎屋に払っていた。
なお、現代人には違和感があるが、「おまえ」は当時、敬称だった。
それにしても、当時の商家の奉公人のいじましさがわかろう。住み込みが原則の彼らは、主人や番頭の目が光っているため、夜遊びはなかなかできなかった。
久にとって、何か月かに一度、蒟蒻島で女郎買いをするのが唯一の楽しみなのだ。
図2に、蒟蒻島の遊女が描かれている。布団は薄く、枕元に置かれた煙草盆も粗末だった。
【用語解説】
・女郎買い
女郎は遊女のこと。女郎という言い方に蔑視はなく、江戸時代は遊女よりも女郎の方が普通に用いられた。遊女と遊ぶのが女郎買いである。吉原でも、岡場所でも、宿場でも、すべて女郎買いと称した。
・女郎買い
女郎は遊女のこと。女郎という言い方に蔑視はなく、江戸時代は遊女よりも女郎の方が普通に用いられた。遊女と遊ぶのが女郎買いである。吉原でも、岡場所でも、宿場でも、すべて女郎買いと称した。