視点を変えると動き出す絵

高野:へぇー、面白いです。(壁にかかっている作品を見て)この作品はすごい大きいですね。

辻尾:アンリ・マティスの『ダンス』のオマージュで作ったもので、あの作品をアニメーションさせるという試みで作りました。素材の厚みを利用することで、見る位置によって絵柄が変わるギミックを開発し、その効果を活用して作った作品です。

 

高野:ご自身で見つけられたんですか。

辻尾:そうですね、この方法を見つけて。

高野:すごい。

辻尾:レイヤードモーションシリーズと名付けていくつか同じ方法で作品を作りました。

高野:ひらめいたことを形にするのって、むちゃくちゃ難しそうですよね。

辻尾:そうですね。割と問題にぶち当たるたびに、その解決法を探っていくみたいな感じで作っていました。

高野:これ、1枚ずつ重ねているんじゃなくて、1枚の板なんですね!

辻尾:そうです、板の表と裏を使っています。2枚でやると、湾曲したりして、距離が変わってしまうので、1枚の厚板で、表と裏で作るような形で作りました。

 

高野:へえー、すごい。角度で違うんですね。正面から見た時と、少し見る角度をずらして見た時と違いますもんね。

辻尾:そうです、そうです。

高野:この置物は?

▲撮影:辻尾一平

辻尾:これは、木工作家の嘉手納重広さんという方がいらっしゃるんですけど、形が好きで集めています。

高野:確かに、面白いですね、見たことがない形です。(辻尾さんの)水滴の時計も面白いですよね。

辻尾:ありがとうございます。あれは、AIでイメージを作っているんです。最近、AIが割と画像生成の技術が発達してきたので、AIを使ってイメージを作るっていうことをちょくちょくしています。実際にもの作りをしていると、壁にぶち当たって完成までにすごい時間かかるんですけど、あくまで画像作品と割り切って作る、みたいなのも最近増えていますね。

高野:そうなんですね。

辻尾:SNSにアップしてみて反響があったら、実際に実物を作ってみることもできます。パンの包装紙も、最初は実はAIで作っていて、それでSNSで結構反響があったので、実物を作って販売するというプロセスでした。

 

高野:面白いですね。製造してくれる業者の方も助かりますね。具体的に完成形が見えるので。

辻尾:確かにそうですね(笑)。

高野:本もかなりの数ありますね。おすすめの本とかありますか?

辻尾:そうですね〜、例えばこれとか面白いですよ。『Alternative Moons』っていう写真集なんですけど、ちょっとご覧いただいて…。

高野:うわぁ! すごい。

辻尾:オルタナティブって、とって変わるものっていう意味で、タイトルが月に代わるものって意味なんですけど、要するに月じゃない物を月っぽく撮っている写真集なんです。

高野:えっマジですか! そう言われると、フライパンとか鍋の底みたいな感じにも見えてきます。

辻尾:この月の正体は、最後のページを見るとわかります。

高野:なんだろう…。辻尾さんは、すぐ答えに気づきました?

辻尾:いや、僕もわかりませんでした。

高野:えぇ? なんだろう…。顕微鏡にも見えますけど…。もともと丸いものですか?

辻尾:丸いですけど、多分トリミングでより丸くしてると思います。

 

高野:これは、パンケーキっぽく見えますね。

辻尾:すごい! 正解です!

高野:え! マジっすか!?

辻尾:そうなんです、これ、パンケーキの写真集なんです。

高野:えー!

辻尾:まんまとやられた感じですよね(笑)。

高野:たしかに(笑)。どんどんパンケーキに見えてきた(笑)。

辻尾:最後のページに種明かしが載っているんですけど、そこもちょっとおしゃれなんです。これはパンケーキでしたって書いているわけじゃなくて、パンケーキのレシピが書いてあるんです。

高野:本当だ、すごい!

辻尾:パンケーキでした、じゃなくて。レシピを書いて、じわじわとパンケーキだってわからせるっていうのが面白いですよね。直接的にデザインの参考になるかどうかは、ともかくとして、面白さとか、やられた感じとか、そういう発見がある本が好きですね。

高野:どうやってこういう本を見つけてくるんですか。

辻尾:書店に結構置いてあるんですよ。

高野:自分の足で見つけるんですね。この本は、本の表紙を見て気に入ったんですか?

辻尾:そうですね、月の写真集なのかな? と、思いながら見ていたら、最後にしてやられたなみたいな(笑)。 “やられた!”っていう感情って、すごく強いと思っていて、僕もSNSとかに制作物を投稿する際に、やられたみたいな感情を引き出せるように気をつけています。

例えば、僕が作った珈琲牛乳のグラスにタイトルをつけるときも、消え文字グラスって言っちゃうと、割とネタバレになってしまうんですけど、珈琲牛乳のグラスっていうと、“どういうこと? 普通に文字が書いてるだけじゃないの? あ、そういうことか!”っていう気づきが生まれるんです。そうすると、同じ情報でもインパクトが大きいです。

高野:僕も辻尾さんのSNSを見て、“やられた!”っていう感じを感じて、そこから興味を持って色んな作品を見ています。

辻尾:ありがとうございます。