彼女と私の、少し不思議な思い出の話

彼女は私よりひとつ年上なのだけれど、背は私よりもずっと低い。小柄で可愛らしくて、昔から驚くほど人と仲良くなるのが上手な人だった。

そんな彼女の「人たらし」な才能を思い知らされた、忘れられない記憶がある。

 

私たちがまだ小学生だった頃の、ある夏の日のこと。

せっかく一緒に遊ぼうと集まったのに、外はあいにくの雷雨。どんよりと暗い空にはゴロゴロと大きな音が響いていた。

「絶対やってないよー」

私がそう言っても、彼女は雨の中をずんずん進んでいく。私は文句を言いながらも、結局彼女の後を追って地元のプールへ向かった。

プールの入り口に着くと、案の定人の気配はない。さてどうしようかと外で雨宿りをしていたら、彼女は1人でひょいと受付の中に入っていった。

数分後、彼女がひょっこり顔を出してこう言った。

「入っていいよって!」

中に入ると、そこにはさっきまで赤の他人だったはずの係員さんと、まるで昔からの知り合いみたいに楽しそうに話す彼女の姿があった。

私が外で雨宿りをしていたわずかな時間で、彼女は持ち前の愛嬌で大人の心を解いてしまったらしい。

結局、私たちは貸し切り状態の屋外プールで2人で泳いだ。雨粒が激しく叩きつける水面と、雨に濡れながらケラケラと笑う彼女の姿。

雷雲は去っていたけれど、少し怖くて、でも最高に自由だったあの日の景色は、今でも私の宝物だ。

彼女の「人たらし」さに驚かされたことは他にもある。

 

待っていたのは彼女が仲良くなった大人の1人だった

また別の、夏休みの日のこと。自然豊かな山あいで、知らない子たちと数日間、共同生活を送るイベントに参加した。

 

そこには運営の大人が何人かいたのだけれど、気づけば彼女はその大人たちの懐にすっかり入り込んでいた。

「明日、4時に起きて。みんなには内緒で来てねって言われたんだ。一緒に行こうよ」

彼女からそう聞いたときは耳を疑った。え、誰に? なんで? どこに行くの? それは私も行っていいの? 頭の中はハテナでいっぱい。けれど、彼女の言葉には不思議な説得力があって、とりあえず言う通りにしてみようと思わされてしまう。これもきっと、彼女が持つ天性の力だったのだと思う。

当時はまだ持っていなかったスマホの代わりに、ウォークマンの目覚まし機能をセットして眠りについた。

翌朝、まだみんなが寝静まっている時間にウォークマンから音楽が流れ出す。慌てて音を消し、隣で眠る彼女を揺り起こして、息を潜めながらそーっと部屋を抜け出した。

外に出ると、まだ陽は昇りきっておらず、辺りは薄暗い。初めて体験する早起きと、誰にも内緒で外へ飛び出す高揚感。ひんやりとした朝の空気が驚くほど心地よかった。

待っていたのは彼女が仲良くなった大人の1人だった。実は地元の農家さんだったというその人に連れられて畑へ向かった。私たちはそこで立派に育った大きなズッキーニ(UFOズッキーニというらしい)や、いくつもの夏野菜をいただいた。

「これ、持って帰って家族と一緒に食べな。みんなには内緒だよ」

私たちは腕いっぱいに野菜を抱えて、また足音を立てないように部屋へ戻る。そしてみんなに見つからないよう、自分たちのボストンバッグの底にそれらを押し込み、何事もなかったかのように布団へ潜り込んだ。

わずか数日間で、どうしてここまで人の心を開かせてしまうのか。隣でスヤスヤと眠る彼女の気配を感じながら、その不思議なパワーをどこか羨ましく思い、私は再び目を閉じた。

 

家族ぐるみの付き合いゆえの奇妙な伝言ゲーム

お正月の再会で、彼女は今、先生をしていると聞いた。

あんなに自由だった彼女が先生だなんて。意外な気もしたけれど、お茶を飲みながら笑う彼女からはあの頃の「人たらし」な魅力が今もプンプン漂っていて、私はやっぱり、一瞬で彼女のペースに引き込まれてしまった。

それに引き換え、私はどうだろう。アイドルという仕事を選んで、ステージの上では大勢の人の前に立っているのに、たった1人の幼なじみに連絡することができない。あんなにそばにいたはずなのに、いざ連絡しようとするとなんだか無性に恥ずかしくなってしまうのだ。

結局、自分では連絡できず、母に「あの子のお母さんに、エッセイに書いていいか聞いておいて」と情けない外注をしてしまった。

私の母から彼女の母へ、そこからようやく本人へ……。そしてまた同じ路線を通る大掛かりな遠回りを経て、母から「いいよってさ」と伝えられた。いい大人が揃いも揃って何をやってるんだという、家族ぐるみの付き合いゆえの奇妙な伝言ゲーム。

けれど、実はお互い様だったらしい。

以前、彼女のお母さんが福岡にある私の家に泊まりに来たとき、教えてもらったことがある。

「あの子、れいちゃんの配信をこっそり見に行ってるらしいのよ。本人には内緒ねって言われてるから、言わないであげて」

彼女もまた、私に直接は言わずに画面越しにエールを送ってくれていたのだ。

いつか、このまどろっこしい距離感を、ひょいと飛び越えられる日が来るだろうか。

その時は母の手を借りず、自分自身の言葉で「会いたい」と伝えたい。

 

次回のHKT48 梁瀬鈴雅「鈴の音」は、3月末更新予定です お楽しみに!!


プロフィール
 
梁瀬 鈴雅(やなせ・れいあ)
加入期 6期生 2022年5月
ニックネーム れいあ
生年月日 2006年6月29日
血液型 B
出身地 神奈川県
身長 170cm

趣味・特技
音楽鑑賞・楽器演奏・楽譜、楽器集め・ゲーム・フィールドホッケー/約30種類の楽器を演奏できること・努力・常磐津

メッセージ
自分自身がHKT48の元気と明るさに救われた経験があるからこそ、私も誰かに元気を与えられる存在になりたいと強く思っています。私のパフォーマンスで誰かの心を動かすことができるよう、常に全力で、全身全霊で頑張ります。ぜひHKT48劇場に会いに来てください。絶対に後悔させません!

梁瀬 鈴雅 ​HKT48 公式プロフィール