この春から体を鍛え直したい貴方に贈る“読む筋トレ”。アメリカをはじめとする世界の最新トレーニング事情から、筋肉を増やす食事法まで。超一流企業のビジネスパーソンは、筋トレで強靭な身体と精神を培っていた! UFC第4代王者マックス・ホロウェイ専属コーチである井谷武氏が、筋トレがもたらした思わぬポジティブ思考について語る。

財布を盗られた僕は警察ではなくジムに向かった

僕が「筋トレ」に救われた話をしたいと思います。

2019年3月、僕はハワイ経由で、ワシントンD.C.とニューヨークに行こうとしていました。直行便で行くと時差ボケがひどいのと、あまりにも航空券が高いので、ハワイに4日間滞在してから行く予定でした。

ハワイ滞在4日目の朝、ホテルの部屋のテーブルの上に置いてあったはずの財布がなくなっていることに気がつきました。

部屋中、探しましたが、見つかりません。しばらくして、ようやく僕が寝ている間に何者かが部屋に侵入して持って行ったのだと理解しました。そして、気がつくと、机の上に「2ドル」だけが残っていました……。

クレジットカードもなく、全財産2ドル。ワシントンD.C.とニューヨーク、計9日間の滞在予定だったので、どう考えても2ドルではやっていけません。ふつうは落ち込む場面だと思いますが、筋トレ歴20年の僕は違いました。

筋トレによる「前向きなホルモン」(テストステロンなど)分泌のおかげで、「これはピンチではなく、神様に試されているのだ!」と考えたのです。

海外で財布を盗まれたら、ほとんどの人は警察や領事館に行くでしょう。しかし僕は「警察や領事館へ行ったところで、財布は戻ってこないだろうな」と思い、「どうせなら夜の出発の飛行機まで、自分が一番得意なことをしよう!」と格闘技のジムへ行くことにしました。

ジムの名前は、「グレーシー・テクニクス」。

何も知らずに行ったこのジムに、世界最高峰の格闘技UFCフェザー級世界王者マックス・ホロウェイと、格闘技ディスティニーの世界チャンピオン中川マイケルが所属していたのです。

僕はトレーニング指導以外にも、身体を動きやすくする可動域の調整などもできます。たまたまその日トレーニングをしていた中川マイケルの身体調整をしました。すると彼は「身体がものすごく動きやすくなった!」と驚き、「僕のトレーニングとコンディショニングのコーチになってほしい!」とその場で依頼を受けたのです。

中川マイケルは、カリフォルニア大学を卒業した秀才で、文武両道のキャリアを積んできた人間です。オールアメリカンに選出されるレスリング選手であり、格闘家であり、マックス・ホロウェイのレスリングのコーチであり、その一方で、一流の会社からヘッドハンティングされる頭脳の持ち主なのです。

マックスが彼を心底信頼しているのは、マイケルが単なる格闘家ではなく、心の底からマックスのことを考えていること、そして、ビジネスで頭角を現す能力を持っていることを知っているからです。彼は、選手を引退した後、ビジネスの世界で大いに活躍するでしょう。

スパークリングは最高のコミュニケーションツール

なぜ、僕がマックス・ホロウェイのコーチに就任できたのでしょうか?

▲マックス・ホロウェイ 

中川マイケルのコーチを引き受けハワイに指導に行っていた僕は、UFC世界王者マックス・ホロウェイともスパーリングをする仲になります。僕にとって、スパーリングや武道は、最高のコミュニケーションツールです。

スパーリングをすると、言葉や国境の壁がなくなり、相手の気持ちがよくわかるようになります。それでマックスと僕は一気に打ち解けました。

さらに、マックス・ホロウェイから絶大な信頼を得ている中川マイケルが「井谷はすごい。トレーニング指導だけでなく、身体の調整もできる。こんな奴は他にいない」と言ってくれたことで、マックス本人からの直々の依頼で、僕は彼のコーチに就任することになったのです。

それから、毎月ハワイにマックス・ホロウェイと中川マイケルの指導に行くようになりました。するとある日、僕はマックスから「3度目のUFC世界タイトルの防衛戦で、セコンドに入ってほしい」という依頼を受けます。

僕は2019年7月、日本人初のUFC世界チャンピオンのセコンドとして、カナダでのマックスの防衛戦に挑みました。その結果、マックスのUFCフェザー級3度目の防衛戦を制すことができたのです。UFC世界チャンピオン。

僕が選手として叶えられなかった夢を、マックス・ホロウェイのコーチとして叶えられたことは奇跡としか言いようがありません。僕はこのことを心から幸せに思います。

※本記事は、井谷武:著『史上最高のパフォーマンスを引き出す 知性を鍛える究極の筋トレ(マガジンハウス)』より一部抜粋編集したものです。

『知性を鍛える究極の筋トレ』は次回6/11(木)更新予定です、お楽しみに。