バノン

くさい度数★★★★

フランス南東部のボークリューズを訪ねたときは、石壺に入った風変わりなチーズを見つけた。それがバノンと呼ばれるチーズであった。

バノンはヤギの乳を原料につくられたチーズで、そのままではにおいがあまりにも強烈で、近づくものさえいないということから、においをやわらげる工夫がなされてきた。そして、薬味草〔ブランデーに浸したフライヤの葉、または栗の葉〕に包んでから、石壺の中で2ヵ月間熟成させることにより、においを落ち着かせる方法を見つけたのである。

▲栗の葉 イメージ:PIXTA

2カ月後、石壺から出す頃には、強いくさみはすっかり消え、とてもマイルドで上品な風味のチーズに変わっている。さしずめ、女房が生娘に若返ったようなイメージである。

自らを“発酵仮面”と称し、世界中のチーズを食べつくしてきた小泉教授に、それぞれの「くささ」の度合いについて星の数で五段階評価してもらった。 発酵食品は宿命的に、くさいにおいを宿しているが、それこそが最大の個性であり魅力なのだ。

「くさい度数」について
★あまりくさくない。むしろ、かぐわしさが食欲をそそる。
★★くさい。濃厚で芳醇なにおい。
★★★強いくさみで、食欲増進か食欲減退か、人によって分かれる。
★★★★のけぞるほどくさい。咳き込み、涙する。
★★★★★失神するほどくさい。ときには命の危険も。

※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より、一部を抜粋編集したものです。