長州とのシングルマッチが流れたその裏で
この記者会見の乱闘劇は話題作りという見方もされたが、鶴田がこれだけ感情を露わにしてしゃべるのは珍しいことだった。だが、鶴田の主張は通らなかった。恐らく馬場と大塚の間では、6・21日本武道館での天龍VS長州再戦は崩せないものだったのだろう。6月7日に改めて発表されたカードはメインが馬場VS木村のPWF戦、セミは天龍VS長州のUN戦〔当日、ノンタイトル戦に変更〕、鶴田はセミ前で石川と組んでの谷津&浜口とのタッグマッチ、その下がタイガーマスクVS小林のNWAインターナショナル・ジュニア・ヘビー級戦。鶴田の試合をタイガーマスクのタイトルマッチより上に持ってきたのは全日本&ジャパンの配慮だろう。
鶴田はこのタッグマッチで強さを見せつけた。谷津のドロップキック、張り手をノーガードで受けながら、表情ひとつ変えずにジャンピング・ニーで吹っ飛ばし、ストンピングで踏みにじり、ジャンピング・アームブリーカーで叩き伏せた。さらにコーナー最上段に上がった浜口をジャンボ・ラリアットで場外に吹っ飛ばし、この1発で石川にリングアウト勝ちの花を持たせて完勝したのである。
これを受けてジャパンは、自主シリーズ『サマー・ドリーム・フェスティバル』の天王山となる8月5日の大阪城ホールで長州VS鶴田を行うことを発表。それまで「打っても響かないタイプは嫌いだ。鶴田戦は期待してないし、いい試合にならないよ。いつも涼しい顔しやがって……向こうがやりたいと言ってもスカしてやるよ」と言っていた長州だが、いざ鶴田戦が正式決定すると「同じミュンヘン・オリンピック出ということでデビュー当時はよく比較されたし、それから別の道を歩いて、今こうして同じリングに上がるようになったよな。お互いプロになって10年以上……とうとう来るべき時が来たっていう感じ。鶴田と戦うことに変なこだわりは持ってないよ」と、珍しく感慨深げに語ったのが印象的だった。
しかし8・5大阪城ホールでの一騎打ちは実現しなかった。大会3日前の8月2日、札幌中島体育センターにおける『サマー・ドリーム・フェスティバル』開幕戦で鶴田が負傷してしまったのだ。
この日のメインに組まれたのは8・5決戦の前哨戦となる長州&カーンVS鶴田&天龍。長州とカーンは鶴田に集中攻撃を仕掛けた。カーンが場外戦で鉄柱とゴングを使って流血に追い込み、リングに戻ったところで長州がブレーンバスター、その後は鶴田の右腕を執拗に攻め、最後はカーンが右腕にコーナー最上段からダブル・ニードロップを投下。駄目押しに右足にもダブル・ニードロップを炸裂させた。
右腕と右足を破壊された鶴田は場外に転げ落ちると、そのまま戦闘不能となり、リングアウト負けに。本部席の机を担架代わりにして運び出されるという醜態をさらした。実は、鶴田は5月末から右肘に異変を感じていた。黒いサポーターを巻くようになったので理由を聞くと、「ラリアットを完成させて、スタン・ハンセンも長州も吹っ飛ばしてやるんだよ」と笑っていたが、指が痺れたり、肘を曲げると痛みが走っていたようだ。