『父親たちの星条旗/硫黄島からの手紙』に学ぶ立体的な歴史観

歴史を学ぶうえでいつも気にするべきことは、歴史として伝えられることはすべて誰かによって描かれたものだということです。

そこには常に「誰か」の視点が介在しているし、「誰か」には個人的な感情もあれば国籍や宗教などのバックグラウンドもあります。映画も必ず誰かによって描かれた作品ですから、純粋にその物語を楽しむのだけではなく、その製作背景に目をむけることで始めて見えてくる世界があるのです。

そんな製作背景が興味深い映画として2つの作品をご紹介します。

『父親たちの星条旗』”Flags of Our Father”(2006)
『硫黄島からの手紙』”Letters from Iwo Jima”(2006)

クリント・イーストウッドが監督として手掛けたこの二部作は、第二次世界大戦最大の戦闘と言われる硫黄島の戦いを、それぞれ米・日の視点から描いたものです。

『父親たちの星条旗』は原作者による父親の回想記であり、その映画化を発案したスティーブン・スピルバーグも父親を戦争世代に持つ人物です。また『硫黄島からの手紙』はクリント・イーストウッドが『父親たちの星条旗』の撮影中に「この戦争を描くには相手側の視点が必要だ」と思い至り、急遽製作が決定したというエピソードが残されています。

監督は、自身がそれまで観てきた戦争映画では、どれも戦争が正義と悪の戦いとして描かれていることに違和感を持ち、1つの見方ではなく複数の視点から描くことを試みたのです。

『父親たちの星条旗』では子の世代から、『硫黄島からの手紙』では相手国から見た戦争を描くことで、それまでの当事者の視点で描かれてきた作品と異なり、他者の目を通しての歴史を映し出すことに成功したという点で、映画史に大きな転換をもたらした作品の1つだと言えます。

教養人として必須の能力の1つに「海外の人と歴史の話ができること」とよく言われてますね。これは単に歴史の知識を持っているということではなく、歴史について多角的な視点から話せることだと考えています。

これら2つの作品が教えてくれるように、同じ時代を描いた映画をいくつか観て、自分の中に蓄えておくことは、歴史の立体的な見方の助けになることでしょう! 監督や製作国、製作年度による描かれ方の違いに注目して観ると、興味深い発見があるかもしれませんね。

<参考>
監督としてのクリント・イーストウッドはよく「大きな戦争の中にある、個人の小さな戦い」を描きます。自身が主演も務める『グラン・トリノ』(2008)の中でも、彼の戦争に対する考え方が強く見て取れるので、併せてご覧になってはいかがでしょうか。

『ジョジョ・ラビット』(2019):第二次世界大戦下でナチの少年がユダヤ人の少女との交流を通じて成長する物語。少年の成長とはつまり、ユダヤ人の視点を想像して物事を考えられるようになったことだと言えるでしょう。