『マネー・ショート』に学ぶ金融危機の本質
新型コロナウイルスや原油価格急落による昨今の世界的な不況は、2008年のリーマン・ショック以上の深刻さであると、メディアでは盛んに取り上げられていますね。
ではそのリーマン・ショックって結局何だったのか、突然聞かれたらちょっとたじろぐ人は少なくないのではないでしょうか。
米国の大手証券会社リーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけに、世界中に金融危機が訪れたことだということはなんとなく分かっていても、ではなぜ破綻したのか、住宅バブルとは何か、サブプライムローンとはどのようなもので何が問題だったのか。本で読むだけでは頭がこんがらがってしまうような事件を扱ったのがこの作品です。
『マネー・ショート』”The Big Short”(2015)
この作品のストーリーも正直難しい。リーマン・ショックの裏側で、いち早く経済破綻の危機を予見した4人の投資家たちを描いた、実話に基づくこの物語。彼らの会話の中では専門用語が容赦なく飛び交います。
それでも音響や映像編集、軽妙なモノローグによって作り出されるテンポ感によって、誰もが楽しめる作品となっているのがこの映画の素晴らしい点。そして逆説的ではあるけれど、専門用語で視聴者を置いていくようなストーリーを展開しつつ、皮肉でコミカルな演出によって軽快な説明を加える構成によって、危機の原因となった金融業界の複雑さを問題視する作品となっています。
この作品は日本公開当時に「4人の男の大逆転物語」として宣伝されて、ヒューマンドラマとしても楽しむことのできる作品です。しかし、この作品をある歴史的事実を扱った作品とみた場合、複雑な出来事を感覚的に理解させてくれる作品として観ることができます。
僕自身この映画を観る前と後では、知識だけで知っていたリーマン・ショックという出来事に対する見方が広がりました。これからこの作品を観る人は、ぜひ前後にいくつかの本を読んでみてください。きっと印象の持ち方に違いを感じると思いますよ!
映画は最後、再び同じ金融危機が起こりかねない状況に警鐘を鳴らして終わります。昨今の不況でもまた、飛び交う専門用語にはうんざりしてしまいます。いつの時でも正確な知識を身に付けるという意識はもちろん大事ですが、何より大事なのは複雑な物事をわかったふりをせず「何かおかしいかもしれない」という、嗅覚を働かせ続けることかもしれません。
この作品の複雑なストーリーと軽快な演出のコントラストから感じられる、その感覚を自分の中に蓄えておくことは、いつかの危機に効いてくるかもしれません!
『国家が破産する日』“국가부도의 날” (2018)は、1997年に韓国で実際におきた通貨危機を描いた作品です。この作品では金融危機を3つの視点から描いています。危機を防ぐために奔走する政府、ピンチをチャンスに変えようとする投資家、そして不況の負の面を食らう町工場の職人。立場ごとに異なる複雑な出来事の見え方に注目して鑑賞してみてはいかがでしょうか。ヒューマンドラマとしても一級です。